化学プロセスと自動制御~番外編~(江頭教授)
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以前、一連のシリーズとして解説した化学プロセスで使われる自動制御についての解説、今回はその番外編です。
先日のオープンキャンパスで自動制御と比較するために、手動制御のデモ実験を行いました。これは以前このシリーズで紹介したものです。最も簡単な制御の実例として電球を加熱装置に見立てて、その温度を制御するというものです。電球をつけると温度が上昇しますが、その温度を測定しながら一定の温度(今回は40℃)に安定させることを目標にしています。
電球のスイッチを入れると温度が徐々に上昇しはじめます。たいていの人は40℃に達するとスイッチを切るのですが、そのときすでに遅く温度は41℃、42℃、と上がってゆきます。やがてゆっくりと温度が下がってくるのですが、今度はスイッチを入れるタイミングが難しい。早すぎると41℃、42℃、の繰り返し。戸惑っている内に39℃になってしまう人もちらほらです。
たいていの人はこの段階でギブアップ、大体5秒から10秒の体験です。でも中には巧くタイミングを掴んで10秒、20秒と記録を伸ばし、ついには1分越えの強者も表れました。
実はこの手動制御のトライアル、難しくしているのは40℃に保つ、という設定です。39℃~41℃に保つ、という設定であればもっと巧く行くでしょう。あるいは温度計の表示を小数点以下まで拡張し、目標をたとえば39.5~40.5℃としても良いでしょう。
40℃の表示をそのままに保つ、という場合、現在の状態が目標値とどの程度はずれているのか、という情報を巧く使うことができないのです。現在の状態が目標値から外れたらすぐにゲームオーバー、これでは温度測定の表示はダメだしのためにのみ用いられるものになってしまいます。フィードバック制御の本来の意義は温度測定の表示を状況の改善に役立てるところにあるのですから、目的地と測定温度がずれていてもゲームオーバーにならない状態、というものが必要なのですね。
さて、このデモ実験でこのレベルまで考えてくれる人がいれば大成功ですが、仲々そこまでは行きません。もっとも、それはそれで構わないのです。手動制御を体験してもらうことで一番わかって欲しいのは、こんな作業は退屈でやっていられないものだ、だからこそ自動制御が必要なのだ、という事なのですから。
これは余談ですが、アルバイトをしてくれた学生さんからの質問が面白かった。「将来的に白熱灯が使われなくなったとして、LEDだとこの実験はできなくなるのでは?」なるほど、それは考えていませんでした。でも、白熱灯がまったく入手できなくなることは考えにくいですし、いざとなれば電熱線で同じ実験をすれば良いでしょう。実のところ、LED電球は熱くならない、という思い込みは危険かも知れません。LED電球と言えどもまったく発熱しない訳では無いでしょうからね。
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