「長期低炭素ビジョン」を読む(その6)(江頭教授)
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日本、そして世界の将来はどのような姿なのか。温暖化問題の解決、という立場からまとめられた日本の将来像「長期低炭素ビジョン」についてシリーズで解説しています。
前回まで、このビジョンが示している未来の絵姿について見てきました。端的にまとめると”「いまのままの生活」を「今ある技術を十全に発達させること」で実現”する、というのがこの絵姿の内容です。では、いままでの技術を十全に発達させたとして充分な温室効果ガスの排出抑制は可能なのでしょうか?
そのような目でこの「ビジョン」を見直してみると「可能である」とも「不可能である」とも明示されてはいません。その代わりに(か、どうかは分かりませんが)下図の様な考え方が示されています。
まず、私たちの利用するエネルギーを大きく「電気」と「熱」に区分しています。それぞれの使用量を表す箱がまず書かれていますが、それが現在の状況、スタートラインです。
まずやるべきことは省エネ。二つの箱は左右から押しつぶされる形で小さくなって、その面積=エネルギー消費量は減ってゆきます。
二つ目はエネルギーの低炭素化。電気も熱も上から押しつぶされる形で小さくなり、エネルギー消費量がさらに減少することが分かります。ここで熱よりも電気の低炭素化が進むことに注目してください。
三つ目は少し目新しい項目で、電化を進めることが示されています。より低炭素化が進む電気へとエネルギーの利用が移行するのでさらに温室効果ガスの排出量は減少します。
さて、この考え方に従って省エネ、エネルギーの低炭素化、電化を進めてゆけば80%の温室効果ガス排出削減を達成できるのでしょうか。この図表の出所は「気候変動長期戦略懇談会」とあります。この情報をたどってゆくと「気候変動長期戦略懇談会」からの「提言 ~温室効果ガスの長期大幅削減と経済・社会的課題の同時解決に向けて~」という文書にたどり着きます。
その中に、もう少し具体的な数値を入れた「試算」の一例が示されています。
この試算はあくまでも一例ということですが、エネルギー利用を40%削減、新たな発電所はすべてCO2を排出しないものとする。(化石燃料を使う発電所にはCCSをつける。)という前提で80%の削減を達成できる、としています。
さて、このように80%の温室効果ガス削減のが実現可能な目標であるとしても、その実現は決して簡単なものではない。「社会経済構造の大転換・変革が必要」であり、「それに向かってイノベーションを引き起こしていくことが必要」である、とされています。
では、そのような大転換やイノベーションはどうやって引き起こせば良いのでしょうか。それがこの「長期低炭素ビジョン」のある意味での結論です。それについては次回、観ていきましょう。
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