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物理量の次元(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回の記事で物理量の単位について考えてみました。そして「違う単位の物理量は足したり引いたり出来ない。」と述べたのですが、今回はその意味についてもう少し考えてみたいと思います。

「私の身長は1メートル76センチです」

 これは普通に使われる表現ですが、「物理量は数値と単位の積」というルールからは外れています。物理量として表現したいなら

「私の身長は 1.76 m です」

あるいは

「私の身長は 176 cm です」

とするべきですね。

 つまり「1メートル76センチ」とは「1m + 76cm」のことで、76cmを0.76mに読み替えれば1.76mに、1mを100cmに読み替えれば176cmになるわけです。

 あれ?メートルとセンチメートルは違う単位なのに足したりしてませんか。

 メートルとセンチメートルは厳密に言えば違う単位なのですが、長さの単位という意味では同じです。同じだから足し算ができますが、違うから100倍(あるいは100分の1)する、つまり換算する必要がある。うーん、「同じ」とか「違う」とか言葉の意味がごちゃごちゃしてきました。

 このような混乱を避けるために使われるのが「次元」です。物理量にはそれぞれの次元がある。例えば身長という物理量は長さの次元をもっている、という言い方をします。長さの次元を記号Lで表現します。1mの次元はL、76cmの次元もL。この2つの物理量は同じ次元なので換算して足し算することができる、という訳です。

 同じ単位の物理量の足し算はそのまま数値の部分を足して単位を付ければ良い。次元が同じ物理量の足し算は換算して単位を一致させてから数値の部分を足して一致させた単位をつける。次元という言葉を使うとこの様に表現することができます。

 こういう言い方もできます。長さLという次元をもつ物理量は長さという次元に対応したいろいろな単位をつかって表現することができます。物理量の数値の部分は使用する単位によって変わります。物理量を表す単位の部分を変更することを換算する、といいますが、その際、数字の部分も一定の倍率で変更されなくてはなりません。そして、単位にはそれぞれ対応する次元があって、違う次元の物理量を表す単位では換算ができないのです。

 同じ次元の物理量に対応する単位なら、SI以外の単位でも換算することができます。図は「化学工学便覧」からの引用ですが、インチなどヤードポンド法の単位系との換算も可能です。

 さて、長さ以外の次元について考えてみましょう。

Photo

 面積の次元はL2、体積の次元はL3と表します。

 重さ、というか質量の次元はLとは別のものですから、Mという別の記号が割り当てられています。密度は質量÷体積ですから密度の次元はML-3となります。

 SI単位系では7つの基本単位から全ての単位が作り出されます。ですから、7つの基本単位の次元を使って全ての物理量の次元を表現することができます。

 長さの次元はL、質量の次元はM、同様に時間の次元はT、電流の次元はIとします。温度の次元はΘ。温度=Temperatureの頭文字Tはすでに時間の次元に使ってしまったので、ギリシャ文字でTに相当するΘ(シータ)が割り当てられています。物質量の次元はN、光度の次元はJと書きます。

 ある物理量Qについて、その次元は一般的に

LαMβTγIδΘεNζJη

と表現されます。ここでα~ηは整数で次元指数と呼ばれます。

 なるほど。良くSFなどに出てくる「四次元の世界」というやつ、この表記法ならL4となるのでしょうね。

江頭 靖幸

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