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化石燃料の使用制限は生活レベルを低下させるか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昔は何であんなことが気になっていたのか、今思い返すと不思議な気がするんですよね。

 えっ、何の話かって?青春の悩みとか若気の至りとかの話じゃないですよ。化石燃料と温暖化の問題です。1990年代、温暖化問題が話題になり始めたころの話ですが、次のような意見があった、と言うよりかなり一般的だったと記憶しています。

「人類の歴史を顧みると人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている。温室効果ガス削減のため化石燃料の使用を制限することは、生活レベルの低下、ひいては社会の進歩の停滞を意味するものであり、絶対に受け入れられない。」

もちろん、いろいろなバリエーションや温度差はありますが、基本にある考え方は「化石燃料の使用制限はエネルギーの供給減少」であり「エネルギーの消費減少は生活レベルの低下」である、という考えです。

 確かに歴史的にみると、石炭や石油、つまり化石燃料の利用によって人間一人あたりのエネルギー消費量は急激に増加し、それによって生活レベルは格段に向上しました。これをみると化石燃料の使用を制限すると産業革命以前の生活に戻るのでは、という考え方も理解できます。それに、おそらく1970年代の「石油ショック」を記憶している世代は「石油の供給が制限されることで生活が苦しくなる」という実体験を持っていますから、この様な考え方をより切実に感じたのでしょう。

 では、今の若い人たちはこの様な考え方をどう見るのだろう、そこが気になって本学科の学生さんに聞いてみることにしました。

I2001014

「エネルギー白書2004」より。

 さて、学生さんの意見で多かったのが

そんなこと言ったって制限するしかないでしょう

というもの。化石燃料の使用によって温暖化が起こる。その被害を考えれば制限はやむなし。ということです。今の学生さんからみれば当たり前なのですが、地球温暖化の理論は1990年代の時点ではまだ疑いの目をもってみられていました。先の意見には「真偽不明の温暖化をおそれて文明を破壊するとは何事か」という含みがあったわけです。

 あれから約30年、温暖化現象は今では実感できるものとなり、若い世代にとっては常識となっているのですね。

 他にもこんな意見も多かった。

再生可能エネルギーがあるじゃない

確かにそうです。90年代には細々と利用されていた風力発電や、高価な技術だった太陽電池も今では十分実用的な技術となっています。再生可能エネルギーの生産量はまだまだ化石燃料によるエネルギー供給より少ないですが、将来化石燃料に取って代わるものとして十分期待できる、少なくとも若い世代の学生さんたちはそう感じるようになっている訳ですね。

 結局のところ、「化石燃料の使用制限は生活レベルを低下させる」という90年代の懸念は、一つには化石燃料を使い続けることの問題点が誰の目にも明らかになり、化石資源を使わない再生可能エネルギーという対応策が実用的となったことで過去のものとなった、ということです。今の若者から見ると、昔は何でこんな意見がまかり通っていたのか、不思議な気がするのでしょう。

江頭 靖幸

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