推薦図書「代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?」(江頭教授)
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ポール・オフィット著
「代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?」
ナカイサヤカ訳
地人書館、2015年
「代替医療」とは我々が普通に病院で受けている医療とは異なった医療のことです。病院で受ける療法は大学の医学部を中心とした研究機関からスタートし臨床試験によって有効性が検証されたもの、特に病院で処方される薬は薬機法に基づいた有効性と安全性の審査をパスしたもので成り立っています。「代替医療」はその枠組みから外れた療法や医薬ですから普通に考えれば信頼性が低い医療のはずです。にもかかわらず、代替医療に頼る患者(とその家族)が後を絶たず、一方でその患者たちからお金を吸い上げて巨万の富を築く者たちがいる、本書はアメリカでの代替医療をめぐる状況について豊富な事例に基づいて分かり易く解説しています。
普通に考えれば代替医療が信頼できないことは明かです。しかし、病気になっている患者、とくに通常の医療では回復が望めない状態の患者やその家族は既に「普通に考える」ことは出来なくなっています。病院で「治らない」と言われた患者は藁にもすがる思いで「治る」と言ってくれる人を探すことになりますが、代替医療を提供する者達の中にはその状態を利用して多額の費用を請求する者がいるのです。結果、患者は回復することはない、それどころかその代替医療自体が有害なことさえあるのですが、支払われた費用が返還されることはありません。
結果、代替医療はビックビジネスとなり、大々的な宣伝で通常の医療への不安をあおり、多くの人々の健康に悪影響を与えながら成長を続ける。患者を犠牲にして集めた資金で今度は政治を動かし、人々を守っていた医療に関する規制に抜け穴をつくりはじる。本書が扱っているのはアメリカでの状況ですが、これは日本にも通じるものがあるといいます。
私たちは病気になれば病院に行って治療を受けることを普通のことだと思っています。しかし、医師から自分が望まないことを告げられたとき、他に自分が言って欲しいことを言ってくれる者が現れたとしたら、その医師を信頼し続けることが出来るでしょうか。本書が優れているのは「代替医療」の問題点の指摘と同時に、標準の医療がなぜ信頼できるのか、について分かり易く説明している点だと思います。「普通に考える」ことができる健康な状態のうちに、標準医療の信頼性を保証している基本的な考え方を理解しておくためにも、本書を一読されることをお勧めします。
さて、本書の原題は「Do You Believe in Magic?」で、和訳すれば副題の「魔法を信じるかい?」に相当します。従って本書のメインのタイトル「代替医療の光と闇」は和訳に際して付けられたタイトルでしょう。
この本を読みながら思ったのは「光なんかどこにもない!」、本書のタイトルは「代替医療の闇」がふさわしいのでは、という事でした。ただ、本書を読み進めてゆくと、終わり近くで「プラセボ(偽薬)効果」に関する最新の理解についての解説があります。著者は、どんな場合に「代替医療」が闇となるのかをまとめると同時に、近代的な医療に伝統的な「代替医療」がもたらす「プラセボ(偽薬)効果」を組み合わせる可能性について触れて本書を終了しています。本書の和訳タイトルを考えた人はこの部分に「光」を見いだしたのでしょう。
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