フィールドにいる自分を信頼してはいけない、というはなし(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
人間、誰しも間違いはある。
それはそうなのですが、実験やフィールド調査の際に間違いをしていたら、場合によっては大変なことになります、というのが今回のお題。
間違いの無いように慎重に、は前提条件としての話ですが、実験結果を整理しているときなど、どう考えても理解できない結果に出くわすことがあります。例えば、一連の実験のうち、一回だけ大きく傾向と違う結果がでることなど。確かに、決められた操作をしたはずで、はっきり記憶しているしノートにもそう書いている。でも実験で得られたサンプルは何かの間違いをしていることを示していて...。新しい現象を発見?装置にバグ?それとも誰かが意図的に邪魔しているのか?
怪しいのは...、まあ自分でしょうね。人間、誰しも間違いをするし、記憶なんて簡単にねつ造されてしまいます。
さて、こんな状況のとき、実験であればもう一度同じ実験を繰り返してみるのが常套手段です。再実験で納得できるデータが得られたなら、最初の回の実験には何らかのミスがあるのでしょう。どんなミスだったか、を追求することはそれほど意味のあることとも思えませんから、結果を破棄して続きの実験を頑張ります。
その一方で、再現実験を行ってもなお最初の回のデータが再現されたとすれば,あなたは何か重要な現象を見つけたのかも知れません。少し条件を変えながら実験を継続して、何が起こっているのか、を見極めてください。
さて、実験ならばこの通りなのですが、フィールでの調査だと話が少し変わってきます。
フィールド調査は基本的に一期一会。再実験ならぬ再調査を行って、全く同じ結論が出ることを期待するのは難しいでしょう。いやが上にも慎重に、と行きたいところですがフィールどの条件は千差万別。だれもが(まあ)快適な実験室と同じ、というわけにはいきません。
個人的なお話をすると、先日出張したオーストラリア、西オーストラリア州、Wickepinという町の近くの農場でのフィールドワークのお話。
実験データ、というのとは違うのですが、植林した樹木に樹液流センサーを取り付けて、センサーが時々刻々と出力するデータをデータロガー(文字通り、データを記録する機械です)に記録、長期の樹液流の変化を観察する、という実験を計画していました。
写真のセットでは赤いボックスにデータロガーが入っています。センサーへはバッテリー(黒い箱)から電力が供給されますが、それだけでは保たないので写真の外部には太陽電池パネルも準備されています。
結構、複雑なシステムですがセットアップをきちんと行ってセンサーが動いていることを確認。よしよし。これで第一セットは終わり。次は第二セットだ...そして、最後の第5セットまでセットアップ完了です。
現地調査の終わり近く、4番目、5番目のセットをもう一度みておこう、そう思ったところ、なんと2台のうち1台のデータロガーのスタートスイッチが入っていなかったのです。
データロガーは確かにデータを記録する機械ですが、さすがにスイッチが入っていないと記録はできません。危うく測定は行われたがデータはない、という状態に陥るところでした。
慌ててフィールドワーク最終日、他の3セットをチェックしてみると、こちらでも一台スタートスイッチの入れ忘れが。うーん。
以前、「明日の自分は他人だ」(だから自分しか見ないメモ書きでもきちんと他人に分かる文章を書きましょう)という名言がありました。私も今回の経験から
フィールドにいる自分を信頼するな
と言っておきましょう。
次回以降、セットアップ完了時に「スタートスイッチが入っている」状態の証拠写真をフィールにいる自分の要求することにしました。
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