実験式と次元(江頭教授)
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前回、工学で利用される数式には「理論式」と「実験式」がある、ということを解説しました。また、物理量の「次元」についても紹介しています。今回は、「実験式」と「次元」の関係について考えてみましょう。
まずは実験式から。実験式は「実験データを整理して式のかたちにまとめたもの」ですから、話は実験から始まります。下図の青いマークがデータ点だとします。横軸をX、縦軸をYとすると、Xが増えるとYも増える、なるほどYはXに比例するのかな、と思って詳しく見てみるとYはXが増えるほどには増えない、少し頭打ちになっていることが判ります。
なるほど、このデータを再現するような式を作るとしたら
Y =a Xb
のかたちが良さそうです。(ここで、a、b は定数となります。)
さて、ここで次元の話を思い出してみましょう。
物理量には次元があり、次元が違う物理量は足したり引いたりできない、そう説明したと思います。よって、物理量の関係式は、左辺と右辺の次元が同じでなければならない。
では、Y =a Xb の左辺と右辺の次元は一致するのでしょうか?
変数 X の次元が例えば L だったとしましょう。 Xb の次元は Lb となってしまいます。b が整数、あるいは簡単な分数ならともかく、実験データによっては b はいろいろな値をとります。 Lb という次元の物理量は一般には無いと考えて良いでしょう。ですから、Xb の次元と Y の次元は一致しない。右辺と左辺の次元を一致させるためには a の次元を適正に決める必要があります。
たとえば Y の次元が M だったとすると a の次元は L-b M となります。
うーん、実験をしたときと同じ単位で Y や X を測っていれば良いのですが、違う単位をつかった場合はどうなるのでしょうか。 例えば X が m から cm に、とか、Y の単位が kg から g に、とか。次元 L-b M の単位の換算とか結構難しいですよね。
これを簡単にするためには X の基準値として X0 、Y の基準値として Y0 を決めて、
(Y / Y0 ) = a (Y / Y0 )b
とすれば良いのです。X と X0 は同じ単位、Y と Y0 も同じ単位なので (X / X0 )、(Y / Y0 )は無次元(次元なし、単位が「1」)となります。このようにまとめると a や b も無次元となり単位について気にする必要はありません。( b は指数なのでもともと無次元ですが...。)
実験式を使うとき、変数の単位の扱いを簡略化するためには変数を無次元にし、その関係として実験式をまとめる、これがコツなのです。
さて、実は話はこれでおしまいではありません。さきほど「X の基準値として X0 、Y の基準値として Y0 」を決める、と書いたのですが、この基準値をどのように決めるべきなのか、という問題が残っています。その点については次回に解説したいと思います。
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