経済成長のためにはエネルギ-が必要か?(江頭教授)
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先日の記事で、「人類の歴史を顧みると人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」のだから、「化石燃料の使用を制限することは生活レベルの低下を意味する」という意見について、学生諸君の反応について紹介しました。要するに「化石燃料を使い続けることはできない」し「再生可能エネルギーがある」というリアクションでした。
今回は、別途「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」という部分について、その真偽を日本のデータから考えてみたいと思います。
まず、明治維新以前と以後、そして戦前までの期間について考えれば「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」のは明かでしょう。産業革命(日本では明治維新がこれにあたります)以降、エネルギーの利用の仕方が根本的に変化し、これが人々の生活を良くしたことに疑いはありません。もちろん、細かくみればこの流れに反して、エネルギー消費が増えたが生活レベルが下がった場所や時期があるかも知れません。しかし、それはぞれ、全体の傾向とは言えないと思います。
そして戦中と戦後初期の混乱期。この期間中にエネルギー消費は下がった時期もあるでしょう。人々の生活は、おそらく場所によって大して変化しないところもあったでしょうが、一部では街全体が消失し、多くの人が命を落とすことにもなり、おおむね、人々の生活は良くはなっていないと思われます。いずれにしても特殊すぎる期間であり、歴史の趨勢とは言えない時代です。
というわけで、以下のデータを「エネルギー白書(2017)」から引用してきました。オイルショック直前の1973年から2015年までのエネルギー消費、そして「人々の生活の質」を代表するものとしてGDPの変化が対比されています。
まず1973年から1990年まで、この期間GDPは継続して速い速度で成長を続けています。しかし、エネルギー消費をみると1975年、1980年に谷があり、エネルギー消費が下がりながらGDPが成長が起する、という状況が見られます。これは第一次、第二次の石油ショックに由来する変化で、エネルギー白書ではこの状況を
1970年代の二度の石油ショックを契機に、製造業を中心に省エネルギー化が進むとともに、省エネルギー型製品の開発も盛んになりました。このような努力の結果、エネルギー消費を抑制しながら経済成長を果たすことができました。
とまとめています。
確かに二回の石油ショックは「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」という状況の例外であると思われます。しかし、これは中東の政治状況による石油価格の上昇に対する対応、とみることもできますから、一時的な変化だと言われれば言い返すことができないでしょう。
1990年以降GDPは緩やかな増加をつづけます。1995年はバブル崩壊の年ですがその時点でもGDPは減少してはいません。本当にGDPが減少するのは2008年、リーマンショックの年となります。この傾向はエネルギーについても同じです。多少増減があるものの、GDP同様にエネルギー消費も緩やかに増加をつづけ、2008年にやはり減少に転じます。これをみるとリーマンショックの規模と深刻さがわかりますね。
さて、注目したいのはリーマンショックから回復した2011年以降の状況です。GDPは2009年を底に上昇に転じました。その一方でエネルギー消費は確実に減少傾向にあります。これは「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」という傾向に明らかに反している実例ではないでしょうか。
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