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人間生活と消費エネルギー ~国際比較編~(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 以前、「人類の歴史を顧みると人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」という主張について記事を書きました。それに関連して日本の最近のエネルギー消費とGDPの関係を議論したのですが、ここ5年ほど、GDPが上昇する(「人間生活(の質)」が向上する)一方で、消費エネルギーが減る、という現象が見られる、と指摘しました。今回はいろいろな国を比較して人間生活と消費エネルギーの関係を考えてみたいと思います。

 まず、「人間生活(の質)」について。GDPそのものは、この指標にはならないでしょう。おなじGDPでも人口の多い国と小さな国ではまともな比較になりません。ここは人口1人あたりのGDPを比較するべきですね。

 日本の話に限ればここ10年ほどの期間、人口はあまり変化していません。2010年にピークを迎え、その前後5年で1%以下の変化しかありませんから、ほぼ人口は一定だとみて良いでしょう。(ですから、2010年以降、GDPが増加しつつエネルギ-消費が減っている、という状況は人口減少が、少なくとも主要な原因ではない、とい言えると思います。)

 日本と他の国を比べる場合にはやはり人口1人あたりのGDPが比較の基準としてふさわしいと考えられます。同じく、1人あたりの一次エネルギーの消費とを比較したのが以下のグラフ。これも「エネルギー白書(2017)」から引用しました。

22112

 このグラフをみると、

  1. おおまかに右上がりのグラフ。GDPが大きいほど一次エネルギー消費は大きい。
  2. 同じGDPでも一次エネルギー消費が大きく異なるケースがある。
  3. とはいえ、同じGDPで一次エネルギー消費が極端に小さいケースは見られない。

という特徴が見られます。3番目の項目は、要するにインド-EUー豪州結ぶラインを下限として、それ以下の領域に現れる国は無い、つまりこれらの国々よりも低い一次エネルギー消費で同じGDPを達成することはできないが、一次エネルギー消費が増える方向でこのラインからずれることはある、ということ。有り体に言えば「エネルギーを無駄遣いすることはできるが倹約するには限界がある」ということになります。

 もっとも、無駄遣いは言い過ぎで、例えばカナダのケースを例に、エネルギー白書では「国によって気候や産業の構造が違うので一概には言えません」と注釈をつけています。
 さて、「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」という主張について、このデータをもとにもう一度考えてみましょう。グラフの解釈の1番目、グラフが大まかに右上がりである、という事実は「人間生活の向上は常にエネルギー消費の増加を伴っている」ことが国際間に比較でも再現されている、ということなのでしょう。インドやインドネシア、ブラジルなどの国が豊かになるためには確かに一次エネルギーの消費を増やす必要があるように見えます。
 一方、2番目、3番目の結論を見ると「一次エネルギーの消費を増やすことなくGDPを増大」させられる国がある、あるいは「GDPを減らすこと無く一次エネルギーの消費を減らす」ことができる国がある、ことが分かります。(もちろん、各国の気候や産業の構造を考慮する必要はありますが。)
 さて、この中で日本はどのような位置にあるのでしょうか。日本は「インド-EUー豪州結ぶライン」にほど近いところにあります。上述の「一次エネルギーの消費を増やすことなくGDPを増大」できたり、「GDPを減らすこと無く一次エネルギーの消費を減らす」ことができる国とは言えないでしょう。
 このように考えると、ここ5年ほどの日本でGDPが上昇する一方で、消費エネルギーが減る、という現象が起こっているということが如何に特殊なことかが分かると思います。

江頭 靖幸

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