公害問題と地球環境問題のあいだ(江頭教授)
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公害問題から地球環境問題へ。よくこんな表現で環境問題の質の変化について話をします。
公害問題は、だれが加害者でだれが被害者か、がはっきりしていて、問題の原因となっている加害者の行動を規制すれば問題が解決することが分かっているタイプの環境問題でした。ですから、公害を出してはいけない、という法律をつくり、工場からの排出物を監視する体制を築くことで問題を解決することができました。
その一方で地球環境問題は、だれもが被害者であると同時に加害者でもある、というタイプの環境問題です。被害者から加害者への抗議という問題解決への原動力も、地球環境問題では限定的な効果しかもちません。特に地球環境問題の主役、温暖化問題ではすべての人々の加害者としての行動が、そのまま人々のエネルギー利用、すなわち豊かな生活に結びついているため、法律によって制限をかけることはぐっと難しくなります。
公害問題と地球環境問題との違いは法律による対策が有効なものと困難なものとの違い、と言っても良いでしょう。
さて、私たちには日本人には実感しにくいのですが公害問題と地球環境問題とのあいだ、とも言うべき環境問題もあります。科学の立場から見ると公害問題そのものでありながら法律による対策が困難な環境問題です。
日本は島国で、他の国とは海という壁で隔てられています。日本の川はすべて日本の川。その川に有毒物質を排出する工場があれば、日本の法律で取り締まることができます。
一方、世界の多くの国々は隣国と陸地で国境を接していますから、当然その国境をまたがって流れる川も存在します。中にはヨーロッパのドナウ川のように十カ国をまたがる川もあるのです。このように複数の国にまたがって流れる川を国際河川と呼びます。
国際河川の水質汚濁問題は、明らかに公害問題の一種ですが、公害問題と同様の法律では対応ができない問題です。公害問題が起こったが、調べてみると原因の工場は他の国にあった、となった場合、問題が起こった国の法律では原因工場の活動を規制することはできません。その意味では地球環境問題のよく似ています。ただ、地球規模の問題とまでは言えませんから、地域環境問題、とよぶべきでしょうか。国家以上世界未満の環境問題、という意味なのですが「地域」という言葉のニュアンスは国家以下をイメージさせるかもしれません。
このような「地域」環境問題は国際河川での水質汚濁だけではありません。国境を越えた大気汚染物質の移動、それによる酸性雨など。日本では余り意識されませんが、解決には自国の法律だけではなく、他国との交渉が必要となる環境問題は少なくないのです。
「水質汚濁防止法」に代表される公害を防ぐための法律から「京都議定書」の様な地球環境問題に対応するための取組へ。日本に限定して考えると全く違う枠組みが急に登場したように見えますが、「地域」環境問題を解決するための国際交渉という中間の段階が存在したのだと思われます。
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