理論式と次元、あるいは次元解析のこと(江頭教授)
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物理量は数値と単位を掛け合わせたものとして表現されます。単位にはいろいろなものがありますが、長さの単位、質量の単位、時間の単位など、互いに換算が可能な単位がついた物理量をまとめて同じ次元をもつ、とよびます。(この辺の事情はこちらで説明しています。)
原理や法則から理論的に導き出された式、すなわち理論式は両辺の次元が一致していること、実験結果をまとめた実験式も同様に次元が一致するように表現すると便利であることなども説明しましたが、今回は理論式について、の両辺の次元が一致している、という条件からどのようなことが言えるのか、を考えてみます。
まず、重力によってものが落ちる、いわゆる自由落下をする場合、落ちる距離 x と落ち始めてからの経過時間 t との関係について考えてみましょう。普通に運動方程式を立てても良いのですが、今回は少し代わった解き方を紹介します。
まず、自由落下の現象に関わる物理量は何でしょうか? 重力加速度 g 落下する物質の質量 m 、これで全部ですね。(空気抵抗は無視しています。)
x の次元は長さの次元 L 、t の次元は時間の次元 T、m の次元は質量の次元 M となります。g の単位は組立単位なので、その次元も長さと時間の次元で表現されて、 LT -2 となります。
さて、運動方程式の解がどのようなかたちになるにせよ、 x は t 、 m 、 g の関数で表されるはずですから、これを
x = A t α mβ gγ
で表してみましょう。(ここで A は無次元の定数とします。)
両辺の次元が等しいとすると、以下の図の様な計算で実は
x = A t 2g
という関係が成立することが示されます。(図の dim() という関数は物理量の次元を表すものです。)
実は、運動方程式の解は
x = (1/2) g t2
であり、上で仮定した式で A が 1/2 とすると一致していることが判ります。
この解の式(理論式)を求める際、じつは運動方程式を解かなくても式の形は判ってしまうのです。A の値は運動方程式を解かないと分かりませんが、たとえば実験をおこなって x と t の関係を一点おさえれば A の値を決めることはできます。つまり、運動方程式を解かずに理論式と同じ実験式を求めることができることになります。
このような考え方を「次元解析」と呼んでいます。今回の例では問題が簡単運動方程式が簡単に解けることから、あまりありがたいと感じないかも知れません。しかし、理論式を求めることが非常に難しく、実験によって情報を得ることが必要な場合、実験データを整理する際に、次元解析をおこなうことで効率的にデータをとり、実験式を整理することができるのです。
まあ、「次元解析」という言葉、覚えておいて損はないでしょう。「そのデータ、次元解析的にはどうなるの?」なんて質問すると格好良くないですか?
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