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健康診断で飲まされるのはバリウムじゃなくて硫酸バリウムですから(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回のお話は東京工科大学の健康診断からスタート。でも学生諸君の健康診断ではありません。我々、教職員向けの健康診断です。

 労働安全衛生法によって事業者は労働者に対する医師による健康診断を定期的に、通常は1年ごとに、実施することになっています。東京工科大学も事業者、そして労働者は教職員ですから、教職員の健康診断が年に一回ある、ということになります。学生向けの健康診断は年度替わりの春、そして教職員の健康診断は秋、と決まっているらしく、毎年今ぐらいの季節に健康診断が行われます。

 さて、学生向け健康診断と教職員向け健康診断、なにか違いがあるのでしょうか。大学生ともなれば「身長が伸びた」ということも希でしょう。これは教職員も同じ。体重の増減で一喜一憂するのも同じですが、私たち教職員の方が少し真剣かもしれません。

 でも、一番の違いはレントゲン検査ではないでしょうか。普通、レントゲンと言えば肺を観る「胸部」レントゲン検査。上着を脱いで金属製品を外して、「はいっ、息を止めて」というやつを想像します。しかし、職員の、なかでも我々中高年のレントゲン検査には「胃部」レントゲン検査というものがあるのです。これは胃がんや胃潰瘍を見つけるための文字通り胃のレントゲン検査です。

 おそらく、年齢に応じて胃がんや胃潰瘍のリスクが上昇していることへの対応なのでしょう。でしょうが、これが仲々の難物です。

 まず、胃を膨らますために粉薬を飲まされます。水に触れるとどんどん気体が発生する粉薬。胃が膨らんだ感覚があり、ゲップをしたいのを我慢させられてまず愉快ではない。それに加えて、胃の内面をはっきり映し出すために「バリウム」と呼ばれる白いクリーム状の物質を飲まされます。「一生懸命飲みやすく味付けしました」感はあるのですが、やっぱり変な口当たり、のどごしです。

 さて、レントゲンの撮影が始まります。担架状の台に寝そべるのですですが、これが遊園地のアトラクションばりに上下左右に動きます。ベストショットを探してレントゲン技師の人が台を動かし、右向け、左向け、とポーズを要求してきます。はいっ、息を止めて。うーん、年に一度ならなんとか我慢できるか。

 さて、この白い液体「バリウム」、原子番号56番、アルカリ土類金属の Ba つまりバリウムから来た呼び名ですが、もちろんバリウムの単体ではありません。

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本学の厚生棟前に止まっているレントゲン車。これで胸部レントゲンと胃部レントゲン、両方を撮影します。

 レントゲン検査の原理はX線写真(今は写真乾板はつかいませんが)です。X線を通しにくい物質が胃の中にとどまって胃壁に良い具合にへばりついていれば胃の内面を調べるには便利です。では、X線を通しにくい物質はどうやって作れば良いのでしょうか。

 X線との相互作用の大小は通常、原子の電子配置よりも質量数の大小できまります。つまり、人間の体を作っている炭素、酸素、水素、窒素などの軽い原子をどのように組み合わせてもX線を通さない物質を作ることはできない、ということになります。そこで、質量数の大きな元素を含んだ物質が選ばれた、それがバリウムを含んだ物質、硫酸バリウムだった、ということです。

 硫酸バリウムにはもう一つ大きな特徴があります。まったく水に溶けないこと。実はバリウムイオンは有毒なのですが、硫酸バリウムは水に溶けないため飲み込んでもバリウムイオンが体内に溶け出ることはありません。水に溶けず、水より比重の大きい硫酸バリウムは胃から腸を抜けてそのまま体の外に排出されます。

 実は、この排出される過程が胃部レントゲン最大の難関だ、というのは私の個人的な意見です。詳しく説明するのは控えますが、これが本当に難物なんです。

江頭 靖幸

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