ヘモグロビンはなぜ酸素と結合しやすいのか、一酸化炭素ともっと結合しやすいのか(江頭教授)
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生物が持つ機能を説明するとき、よく「何々に役立つから」という言い方をします。人間や動物、ほ乳類の体内には血流があり、血流には赤血球が含まれ、赤血球にはヘモグロビンが存在しています。ヘモグロビンは酸素と結合・分離を行うことで体内に酸素を運ぶ役目を果たしています。
ですから、「ヘモグロビンが酸素と結合しやすい」ことの理由は、血流に乗せて酸素を体中に運ぶため、と説明することができますね。
さて、以前このブログでも紹介しましたが、「一酸化炭素が危険なのはヘモグロビンが、酸素より一酸化炭素と結合しやすいため血流と共に酸素を体内に運ぶ機能が障害されてしまうから。」です。
二つ目の疑問「ヘモグロビンが酸素より一酸化炭素ともっと結合しやすいのはなぜか」にはどのように答えれば良いのでしょうか?
ヘモグロビンが一酸化炭素と結合することで何かの役に立っているのでしょうか?
我々、人間が生活なかで一酸化炭素と接触するリスクがあるのはどのような場面でしょうか。閉め切った室内で火を使った暖房を行い、不完全燃焼によって一酸化炭素が生じるケース。一酸化炭素を含んだ自動車排気ガスを吸い込んでしまうケース。火災に巻き込まれるケース、などが考えられますが、いずれも火を使い、道具を利用する、という人間に固有の特性に由来するものです。
猿やそのほかのほ乳類など、人間以外の動物もヘモグロビンを含む赤い血が流れている生き物です。それらの生物にとっても一酸化炭素は危険な物質ではあるでしょう。しかし、人間以外の動物が一酸化炭素と接触する機会はほとんどありません。これは人間の祖先に当たる生物にとっても同じことであり、人間は一酸化炭素と無縁の環境で進化してきました。
こう考えると「ヘモグロビンが一酸化炭素と結合することで○○の役に立っている」、だから「一酸化炭素と結合しやすいヘモグロビンをもった種が生き残った」という答えは無理筋だということが分かります。
「ヘモグロビンが酸素より一酸化炭素ともっと結合しやすいのはなぜか」という疑問に対する答えは生物の進化とは切り離して答えなければなりません。この疑問に答えるにはヘモグロビンの化学的な性質に注目する、つまり生物の部分としてのヘモグロビンではなく、化学物質の集合体としてのヘモグロビンを理解することが必要です。
生物は単なる化学物質の集合体ではなく、統合された機能をもった存在です。しかし、それは生物が化学物質の集合体である、という側面を打ち消す訳ではありません。ヘモグロビンの化学的な性質が、一酸化炭素に弱いという生物としての人間の不完全さに反映している。この事実は生物と化学、そして物理の連続性を示す一例なのです。
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