大きなものを加熱するのは難しい(江頭教授)
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化学の授業では化学反応に伴う熱の発生や吸収について学びます。でも、熱の伝わり方、伝熱についてまとまった話はありません。伝熱は化学ではなくて物理の範囲ですからね。
とはいえ、化学反応を起こすには加熱を必要とするケースが多い(というか、温度によってコントールできる反応が興味の対象になっているわけですが……)ので、加熱する、という操作は化学にとって重要だ、ということで今回のお題は加熱についてです。
化学実験で何かを加熱する際、小学校から高校まではアルコールランプやブンゼンバーナーなど、炎を使って加熱する操作が多かったのではないでしょうか。これは基本的には料理でつかう鍋と同じで、容器の下から加熱する、という形式です。
普通の実験室スケールであればこの加熱法で何の問題もありません。例えば
直径5cmのビーカーに4㎝の深さで水がたまっている
としましょう。加熱は簡単で火加減によりますが5分あれば沸騰させられます。では、これが10倍になったとしましょう。
直径50cmのビーカーに40㎝の深さで水がたまっている
ことになります。容量は約80L、重さは80kgになりますから、扱うのも大変。これを大きなコンロか何かで下から温めたとしても5分で沸騰させることは不可能でしょう。
先ほど「10倍になった」と書きました。直径や深さは確かに10倍なのですが、縦横高さ方向に10倍になったことを考えると体積は実は1000倍になっているのです。
これを下から温めようとする場合、底部の面積は縦横10倍で100倍にしかなりません。100倍の面積を加熱して1000倍の液体を加熱する、単純に考えても同じ面積から10倍の熱量を伝えなければなりません。単純に熱エネルギーが1000倍必要だという事情に加えて、ものを加熱する、とくに大きなものを加熱するにはこのような事情があるのです。
必要な熱量は体積に比例するのに伝熱するのは面積に比例する、このような関係は二乗三乗則と呼ばれていて、生物の世界でもよく見られる関係です。
アリの足は胴体と比較するとすごく細いのですが、それでも自分の体を支えることができますし、自分体重なみの物体を軽々と(そう見えているだけかもしれませんが)持ち上げるほどの力があります。アリのサイズは小さい、そのために足の筋肉の断面積が小さくなる以上に体の体積、そして体重が小さくなるので、細い足でも体を支えることができるのです。
逆にバクテリアの様に体の表面から呼吸を行っている生物は人間のような大きさに成長することはできません。なぜなら、体が大きくなると必要とする酸素の量は三乗で増えるのに対し、酸素を取り込む表面は二乗でしか増えないため、酸素の供給不足に陥ってしまうからです。人間の場合、表面積の不足を補うために呼吸を行うための器官、つまり肺を持っているわけですが、その内部構造には空気と接触するための広大な表面積が備わっています。
こう考えると大量の液体を加熱するには、「巨大ビーカー」とは違ったそれなりの構造をもった装置が必要だ、ということが分かります。では、その装置にはどんな特徴があるのでしょうか。その点については次回以降考えてみたいと思います。
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