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シリカゲルの乾燥剤(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 子供の頃、お菓子の入れ物に入っていた乾燥剤、それが「シリカゲル」という名前であることを知ったのは「シリカ」や「シリコン」、「ゲル」といった言葉を知るよりずっと前の事でした。白い半透明の粒が入れ物の中の水分を吸収するのですが、中に混ざっている青い粒が赤く変色したらもう使えない。なんとなく不思議なものだと思っていた記憶があります。

 「シリコン」の酸化物が「シリカ」、シリカのコロイド粒子の溶液が固化したものが「シリカゲル」ですが、実際に乾燥剤として利用されているものはここから溶媒(水)を蒸発させて乾燥させたものです。シリカゲルには溶媒の抜けた細かい穴(孔)がたくさん開いているので「多孔質」とよばれています。シリカゲルの表面は親水性で水となじみやすく、多孔質なので孔の内側の表面を含めると重さ当たりの表面積が非常に大きくなります。このためシリカゲルは空気中の水分を吸着する力と量が大きい理想的な乾燥剤となるのです。

 これも子供の頃の話ですが、シリカゲルを水に浸けてみたことがあります。熱くなってパチパチと音を立てながら丸いシリカゲルの粒が砕けていくのをみて驚きました。

 シリカゲルの表面に水が吸着して安定化。その分のエネルギーが熱として解放されて全体が熱くなったのでしょう。シリカゲル粒子の周りから水が中にしみ込んでゆくとシリカゲルの中に入っていた空気には逃げ場がありませんから中心に向かって押し込められる。その圧力が高くなってもろいシリカゲルの粒はその圧力に耐えられなかったのだ。今ならそう理解できます。

 さて、シリカゲルの乾燥剤に含まれている青いシリカゲル。これには他のシリカゲル粒子と違って、コバルト塩がしみ込ませてあります。

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 塩化コバルト錯体の色は青ですが、これに水分が吸収されて水分子を含むコバルトの錯体(アコ錯体)になると色が赤(ピンク)色に変色します。イオンの周囲に配位する分子の変化によって色が変わる、大学での授業で習ったとき、この青いシリカゲルが例に出されていたことを思い出します。

 青から赤への変色、じつは可逆的な現象です。湿気を吸ってしまったシリカゲルを加熱して乾燥させると赤くなった粒子も青い色に戻ります。シリカゲルは再利用可能なのですが、家庭でお菓子の乾燥剤をつかう理由はありません。実際にシリカゲルを再生して使うようになったのは大学の研究室に入ってデシケーターを利用するようになってからでした。その際、使われていたシリカゲルが全て青い粒だったのに驚きました。何故か、贅沢だ、と思ったのものです。

 はて、シリカの多孔体にコバルト塩をしみ込ませたものって、これコバルト触媒の前駆体そのものでは。これを酸化、還元したらシリカ担持コバルト触媒になってFT合成ができるかも知れませんね。

江頭 靖幸

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