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映画「不都合な真実2」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「不都合な真実2 放置された地球」は以前に紹介した2006年の映画(そして書籍)「不都合な真実」の10年後の続編です。米国のクリントン政権での副大統領だったアル・ゴア氏が地球温暖問題について語る講演会の映像を軸に、講演で触れられた場所の映像やゴア氏自身の現在の活動、過去の回想を交えて「不都合」ではあるが「真実」である温暖化問題について啓発する、この構成は約10年後の続編であるこの映画でも共通のものです。

 しかし、10年前の「不都合な真実」では新たな問題を指摘し、人々が解決のために活動することを訴える、というシンプルな流れであったのに対し、この続編の話の流れは少し複雑です。前作で説明された温暖化のメカニズムなどは当然ながら省略されています。10年の間により明確になった温暖化の影響を示す映像は雄弁ですが、内容自体は10年前に予測されていたことと変わりはありません。そのため、本作で新たに語られるのはゴア氏自身の、そしてゴア氏に共感して動き始めた人たちの活動なのです。

 「不都合な真実」で有名になったゴア氏ですが、大統領選における不本意な敗北の後、この地球温暖化問題についての啓発活動を本格的に始動させます。世界中に人たちに呼びかけるため、自分に代わってプレゼンテーションを行える様な「気候リーダー」を育成する活動。自身の経歴を活かした世界各国の要人との対話など。パリ協定の成立の場面はこの映画のハイライトとなっています。

 しかし、その後のトランプ政権の誕生により米国政府の温暖化対策は大きく方向転換します。そして、失意の中でも希望を失わないゴア氏の姿でこの映画は幕となります。

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 さて、この映画、私個人としては前作ほどには共感することができませんでした。10年の年月は「地球温暖化」という「不都合な真実」を多くの人が認識できるほど明確のものとしました。人間が直面している気候変動は容赦なく進んでいるのに、一方のゴア氏を中心とする人々の活動は私にはめぼしい成果を上げているようには見えません。

 これは別にゴア氏の責任ではありません。ただ、彼らのアプローチが、人々がまだ温暖化という「真実」を知らないから温暖化問題が解決できないのだ、という考え方に基づいていて、その「真実」を知れば人々は解決に向けて動き出すはずだ、なぜならそれが道徳的に正しい道だからだ、と言っているように見えるのです。

 この映画の原題についている副題「TRUTH TO POWER」にも現れているように、どうやらゴア氏たちにとって「真実」とは、それを受け入れることによって行動を起こさせるものの様です。しかし、私の感覚では人は「真実」を知っても、やはり行動を起こさないこともある、というか行動を起こさないのが普通だ、と思えるのです。そして行動するかの判断は1人1人の独自性の表れであり、行動しなからといって決して責められるべきことではありません。

 この映画のラストでゴア氏は地球温暖化問題を米国の公民権運動になぞらえています。米国の人々には訴える力のある言葉なのかも知れませんが、日本人である私にはこの話し方ではピンとこないのです。本来、地球温暖化は人類全体の問題であり、しかも誰にも共通な「豊かな生活がしたい」あるいはもっと深刻な「生き残りたい」という根本的な欲求に対する脅威であり、であるからこそすべての人々が共通に目的として掲げることができると思うのです。そのレベルでは既に世界の多くの人々にとって温暖化問題の真実は共有されているのではないでしょうか。それがゴア氏たちの運動の成果であることは確かですが、その先には別のプレーヤーが必要です。この映画が中心としているゴア氏の活動は、10年の間にホットな部分ではなくなったのかも知れません。

江頭 靖幸

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