自動運転と自動制御(江頭教授)
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本学工学部の特徴の一つ、コーオプ教育では、1年生を対象としたグループワークの授業、「コーオプ演習Ⅰ」を行っています。今年度の課題は「最近話題になっている技術・経済的なトピックで賛否が分かれているもの」を各グループで選択、それに対して賛否を明らかにした結論を提示するというものです。先日その中間発表会がありましたが、その中で「自動車の自動運転」を題材に選択したチームが2チームありました。
両チームとも触れていましたが、自動運転の問題のひとつとして指摘されるのは「法的責任」の問題です。自動運転された車が事故を起こしたとき、誰が責任をとるのか。現在は運転している人間が責任をとるところなのですが、自動運転の場合は車が自分で走る訳です。その車が事故を起こしたとしても車自身が責任をとることはできません。車の持ち主が責任をとるべきでしょうか。あるいは車のメーカーでしょうか。機械としての車のメーカー、あるいは自動運転のソフトのメーカーが責任をもつのでしょうか。
さて、この問題に関する発表を聞いて考えたのですが、自動運転は自動車だけが対象ではありません。以前、このブログでも紹介しましたが機械の自動運転、つまり自動制御は化学工場をはじめとして、いろいろな場所で広く利用されています。その自動制御装置が事故の原因となったとしたら、責任問題はどうなっているのでしょうか。以前の記事で紹介した自動制御のデモで使用したオムロンの自動制御装置(E5CB)を例に使用条件を調べてみました。
オムロン社のホームページには下記の様な「ご承諾事項」が載っています。
さて、この中で示されている保証内容は以下のようなものです。
保証内容 故障した「当社商品」について、以下のいずれかを「当社」の任意の判断で実施します。
a. 当社保守サービス拠点における故障した「当社商品」の無償修理
(ただし、電子・機構部品については、修理対応は行いません。)
b. 故障した「当社商品」と同数の代替品の無償提供
この「保証内容」は自動制御装置限定ではありませんが、自動制御装置にも適用されるものです。自動制御だからといって特別な保証があるわけでは無いようです。
つまり、自動制御装置が何かの事故を起こしたとしても、その装置自体の保証はしても、その事故の結果については責任を負わない、ということなのです。先の自動車の自動運転の例で考えると「自動車の所有者がすべての責任を負う」というケースに相当しています。
それに加えて
お客様が「当社商品」をこれらの用途に使用される際には、「当社」は「当社商品」に対して一切保証をいたしません。
として、以下の様な用途を挙げています。
a. 高い安全性が必要とされる用途(例:原子力制御設備、燃焼設備、航空・宇宙設備、鉄道設備、昇降設備、娯楽設備、医用機器、安全装置、その他生命・身体に危険が及びうる用途)
b. 高い信頼性が必要な用途(例:ガス・水道・電気等の供給システム、24時間連続運転システム、決済システムほか権利・財産を取扱う用途など)
c. 厳しい条件または環境での用途(例:屋外に設置する設備、化学的汚染を被る設備、電磁的妨害を被る設備、振動・衝撃を受ける設備など)
要するに、自動制御装置のユーザーは自分の責任において装置を利用すること、さらにその場合でも深刻な影響がでる領域では使わないように、ということの様です。
自動制御装置のユーザーは企業なので、この条件で対応できるのでしょう。一方で自動運転の対象となる自動車のユーザーは一般の個人ですから、この条件をそのまま適用するのは難しいのではないでしょうか。
自動運転の問題には議論が必要な課題の様です。
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