自動運転と排ガス規制(江頭教授)
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先日の記事で自動車の自動運転について、事故の際の法的責任のありかについての議論を紹介しました。自動車が事故を起こしたとき、現在は運転者の責任が問われますが、自動運転には運転者はいません。では事故の責任は自動車の所有者にあるのでしょうか。それとも事故を起こした車を売った企業にあるのでしょうか。
前回は、自動制御装置を例にとって考えてみました。自動制御装置を購入する人(とうか企業)はそれなりの技術をもっていますから、基本的には購入した側が責任をもって運用する。事故が起こっても、保証は自動制御装置の交換や修理にとどまる、というのが結論でした。
では、購入するひとが一般の個人を含む、とくに技術的な能力の無い人たちだとしたら、どうやって安全を確保すれば良いのでしょうか。このようなケースの例として自動車に対する環境基準のついて考えてみよう、というのが今回のお題です。
1960年代の公害問題を契機として「大気汚染防止法」という法律がつくられ、そのなかで自動車の排気ガスについても規制が行われています。下に引用した図は「平成23年度 環境白書」から引用したものですが、NOx(窒素酸化物のこと)の規制は昭和48年にくらべて100倍くらい厳しく規制されていることが読み取れます。このほかにも炭化水素やPMなど規制が規制の対象となり、年々厳しく規制がかけられているのです。
でも、「スピード違反で捕まった」とか「駐車違反で罰金だ」という話は聞きますが、「窒素酸化物を出し過ぎて免停になった」なんて話は聞いたことがないのでは?排気ガスの規制というのは具体的にはどのように行われているのでしょうか?
皆さんもご存じかと思いますが、自動車メーカーが新しい自動車を開発しても、それを販売して公道を走らせるには国土交通省の認可が必要になります。新しい車が保安基準に適合しているか、を販売前にチェックする制度で、たとえば充分なブレーキ性能があるか、などが審査されると考えると分かりやすいのですね。実は、この保安基準の中に排気ガスについての基準も含まれています。排気ガス中のNOxなどが十分に低減されているか、この保安基準に適合した車種だけが公道を走ることができるのです。
一般のドライバーは保安基準を満たす自動車しか、そもそも入手することができませんから、「窒素酸化物を出し過ぎて免停になった」りすることはあり得ない。自然に規制をまもることができる。そういう制度になっているのです。唯一例外として考えられるのは自動車の改造や故障によって期待された性能が達成されないケースですが、これは定期的に自動車を検査する制度、車検、によって対応されています。
さて、この大気汚染防止法の自動車の対応から、自動運転の問題をもう一度考えてみましょう。このケースは自動車が環境基準をまもるための努力は自動車のメーカーが追うこととなっています。排気ガスは走行中に必ずでるもので、自動運転している自動車の事故とは少々性質が異なっているかも知れません。しかし、自動運転についてある種の基準を設けて、その基準についてはメーカーに対応を義務づける、とい考え方は自動運転の導入に際しては当然検討されるべき方法だと思います。
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