オーストラリア レオノラ の重力(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
私は「乾燥地への植林による二酸化炭素固定」というテーマで研究を行っています。要するに沙漠の緑化なのですが、オーストラリア内陸部のレオノラという町を対象地としています。(下の地図の赤線の部分。小さな町なのですが領域でみると大きいですね。)
さて、このレオノラの町の主な産業は牧畜ともう一つ、地下資源の採掘があります。最近はニッケルの鉱石を掘り出しているそうです。それもあるのでしょう、現地調査にゆくと乾燥地のなかでキャンプをしている集団に出会うことがあります。聞けば彼らは鉱床を探索しているとか。どうやって?最近は重力を測定することで鉱石がある場所がわかるのでそうです。
はて、鉱床があると重力が変化するのでしょうか。重力は非常に弱い力で地球ぐらい大きな質量の物体の重力はそれなりですが、鉱床の重力なんか測ることができるのでしょうか?
簡単なモデルで考えてみましょう。地球の直径を D 、密度を ρ とすると地球の質量 M は πρD3/6 となります。地表に存在する質量 m の物体に働く重力 F は
F = GMm / r2
ここで G は重力定数。r は地球の半径で D/2 で、これは質量 m の物体と地球の重心間の距離でもあります。r 、M に代わって D、ρを使うと
F = (2/3)πρGD m
となります。
さて、m の直下に地球の平均密度よりも Δρ だけ密度が大きな直径 d の球形の鉱床があたっと考えてみます。この鉱床による m にかかる重力の増加分を ΔF とすると同様に
ΔF = (2/3)πΔρGd m
です。
FとΔFの比率が鉱床の存在による重力の変化率です。計算すると
ΔF / F = (Δρ/ρ)(d/D)
となりました。鉱物資源による土壌密度の変化はどのくらいでしょうか。まったく知識はありませんが、仮に1%としてみましょう。Δρ/ρ は 0.01 となります。
地球の直径は 12,742 km だそうです。鉱床の直径を例えば 10 km 程度だと仮定すると d/D は 0.001 程度です。
両者を掛けると 0.00001。十万分の一の精度、あるいは有効数字5桁の重力の測定ができれば重力による鉱床探索は有効なようです。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)