「洋上風力発電」と法整備(江頭教授)
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先日(2月20日)、読売新聞の一面をみると洋上風力発電の法整備に関する記事が載っていました。洋上風力発電の導入を促進するために国が「促進区域指定」を指定する。最長30年の事業期間を認めることができる、といった内容だそうです。
さて、まずは技術の問題として洋上風力発電を考えてみましょう。風力発電は風車を回してその力で発電するもの。シンプルな原理で実用化が難しい様には思えません。洋上風力発電では、これを海面で行って発電するのですが、これも普通のある土木工事や造船技術の延長であり、これも技術的には実現が難しい様には見えないと思います。
それでも、洋上風力発電所が一気に作られて日本のエネルギー源が再生可能エネルギー中心に切り替わる、ということはありません。私は子どもの頃から、そんな状況にいらだちを感じていましたが、今回のニュースの内容は、技術的な問題以外の問題点を反映していると感じました。
実際に洋上発電所を造ろう、と考えた人が事業を展開するためには採算が合って資金を回収できると確信できることが必要です。発電所の様に長い寿命をもつシステムを高額の費用をかけて造ろうとするとき、何年運用できるのか、その保証が欲しいと考えるのは当然です。当然、それに対応する法的な整備が必要だ、と言えるでしょう。
サステイナブルな社会を実現する、という目標に対して、工学はその必須の要素であることは間違いありません。特に、ずば抜けた工学的な成果、例えば1年で建造費を回収できる超省エネルギー省資源な風力発電所を実現できる技術など、があれば社会の仕組みがどうであろうともサステイナブルな社会を実現できるでしょう。しかし実際には工学だけで実際の世の中が変化するという訳でもないのです。
工学と社会が共に努力して、それでも長い年月を経て、サステイナブルな社会へと徐々に近づいてゆく、それが現実的な私たちの未来なのだろう。この年齢になってようやく私もそう思えるようになってきたのです。
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