デジタル画像の縦横比(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
私たちの身の回りにあるいろいろな製品を形作っている材料、昔は自然に存在するものを加工して用いていたのですが、現在では化学的に合成されたものも多く利用されています。
化学的に合成された、ということは原子の組み替えの結果として生じた物質ですから、化学反応が起こっていたとき、その物質は液体か気体か、ともかく固体ではなかったはずです。その一方で実際に使われる材料は基本的には固体である。こう考えると、材料を作成する際、液体か気体、つまり流体の状態で反応を起こし、その後で固体を形成させる必要がある、つまり流体から固体が発生するプロセスが材料製造には必須である、ということが分かります。
流体から発生する固体はどんな形をしているのでしょうか?できるものの性質や周囲の環境などいろいろな影響があり得るのですが、シンプルに均質な流体から固体が発生するとしたら、どの方向にも特徴の無い形状、つまり球体の物質ができることになります。
雪の結晶など、すぐに例外を思いつくことからも分かる様に、流体から発生する固体が常に球体という訳ではありませんが、球体になっている場合も少なくありません。そして球体の固体をみると、反応から固体の生成まで、このプロセスは均一な状態で進行したのだな、という情報を読み取ることができます。
ところが、ある日、球体ではなくて楕円形(正確には回転楕円体ですね)の固体がたくさん写っている電子顕微鏡の写真を見つけました。しかも方向がすべてきちんと揃っている。いったいこの固体はどんな環境で発生したのでしょうか?
真球(左の画像)を少しいじると回転楕円体(右の画像)に…。
この記事のタイトルが既にネタバレなのですが、件の写真、じつは縦横比が狂っていたのです。本当は真球の粒子が発生していた、良くあるタイプの写真だったのですが、いつの間にか縦横に比率が変更されて球体の粒子が楕円にゆがんでいたのです。方向が揃う、というのもこれなら当たり前ですね。
コンピュータで画像を扱うことが一般的になってから、画像を加工することも簡単になっています。縦横比の変更など、もっともやりやすい加工の一つ、というか人によっては加工している意識すらないかも知れません。原稿に貼り付けた画像をいろいろといじっている間になんとなく縦横比を変えてしまったのでしょうか。しかし、今回のように縦横比が変わると見方によっては意味が変わってしまうケースもあります。比較的変化が分かりやすいケースは良いのですが、意味が変わっていながらそれが映像だけからは分からないようなケースがあれば事は深刻です。
映像の縦横比の変更をどう考えるべきか。少なくとも科学の分野では基本的には変更しない。なにかの事情がある場合でも、縦横比がどの程度変更されたのか、を明示した上で変更するのが適正ではないかと思います。
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