テレビの縦横比と著作権(江頭教授)
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昨日の記事では「シンガポール版の新聞が現地の用紙に合わせて縦横比が調整されているらしい」と書いたのですが、それについて思い出したのがテレビの縦横比と著作権の問題。それが今回のお題です。
昔のテレビはブラウン管テレビが主流でした。その縦横比は4:3でした。(横長なので横縦比が4:3と言うべきでしょうか。まあ、慣習に従って縦横比としておきます。)
その後、テレビの大型化に伴って 16:9 の縦横比のワイドテレビが登場します。ブラウン管テレビにもワイドテレビが存在しましたが、もともとワイドテレビ仕様だった液晶テレビやプラズマテレビが主流となってからはテレビと言えば 16:9 のもので誰もわざわざワイドテレビとは呼ばなくなっています。
さて、この 4:3 のテレビから 16:9 のワイドテレビへの移行期には 4:3 の縦横比の映像と 16:9 の縦横比の映像が入り乱れて供給されていました。かなり意識的に対応しないと 4:3 の映像を 16:9 に引き延ばして見ることになったりしたものです。「この女優さん太ったなー」とかね。
映像の縦横比の問題、確かに問題なのですが、おかしいと気づけばすぐに対応することができるのですから、そんなに深刻な問題ではない。まして法的な問題とは無縁であると思っていました。ところが、これが著作権法違反になるのではないか、という議論があったのです。
著作権は「努力して作品を創り出した人が適正な報酬を受けられるようにすることで文化の継続性を保証する」ために考え出された権利です。テレビで流されるような映像も当然その対象となりますから、映像を創った著作者には著作権があるわけです。
では、著作権とは具体的にどのような権利なのでしょうか。自分が創った映像作品が他人に勝手に利用されない権利、利用される場合に対価を受けることができる権利(財産権ですね)が基本です。
それに加えて著作者がその作品で伝えたかったことが正しく伝えられるための権利、著作人格権も存在します。その著作人格権を守るためには、例えば映像作品なら、その著作者の意図を正しく反映したかたちで上映するべきだ、ということになります。
さて、縦横比の話に戻りましょう。4:3 の縦横比を前提として作られた映像を 16:9 に変更して上映する、あるいは16:9 の縦横比の画像の両脇をカットして無理矢理 4:3 の縦横比で上映することは「著作者の意図を正しく反映したかたち」といえるのでしょうか。厳密に言えばこれは著作者に意図に反した映像であり、縦横比を変えた上映形式は著作人格権を犯していると言えるはずです。
もちろん、個人が自宅で映像を見ている場合は問題にならない、というか問題にする方法がありませんよね。映画館での上映ではどうでしょうか。いや、劇場で縦横比が間違った映像が流れたら普通に事故ですし、当時の映画はまだフィルム上映だったはずです。ではどんな場合に問題になり得るのか。
「テレビの売り場で映像が流されていて、そのなかで縦横比の間違った映像が流れてしまう。」
あまり深刻な著作人格権の侵害とも思えないのですが…。とはいえ、技術的な問題と法的な問題のつながりには意外な側面があるものだ、当時の私はそんなふうに感じたものでした。
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