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「安全工学」の講義 番外編(図書紹介)(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 2年生の講義「安全工学」担当の片桐です。今回は安全工学関係の図書紹介です。

 紹介する図書は、松永和紀「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」光文社新書(2007)です。

 私の「安全工学」あるいは前の大学での「環境安全化学」「安全化学」「工学安全教育」を受講された方は、片桐があえて社会常識は通念に反する事象を示し、それを考えさせていたことを憶えていらっしゃると思います。

 例えば、カーソンの沈黙の春がマラリア禍の再燃を招いたとか(ブログ2016.04.26)、二酸化炭素の増大は食料危機を防いでくれるかもしれないとか、農薬を使わない有機農法の野菜の天然農薬の危険性とか(ブログ2016.04.28)、イソフラボンは体に悪いこともあるとか、ポリ塩化ビニルは地球にやさしいとか(ブログ2015.12.08)…まあ、過激な意見をあえて示してきました。もちろん、私自身もそのような私の示す「意見」を異端として示し、学生さんたちには必ず疑ってかかることを要求します。私の講義では社会常識や通念を改めて安全−危険の俎上に乗せて、学生さんが「自分で取材し直し、自分の頭で考え、自分の意見を(レポートで)表明する」ことを求めたわけです。それと同時に、絶対的正義も悪もないことの理解を求めています。

 今回紹介するこの図書は、そのような社会通念に対する反論をまとめたような本です。著者の方は農学の修士課程の後に新聞社に勤められ、その後フリーの化学ライターになられた方です。

 この本に書かれた内容は、「事実」をもとに、そのようなニセ科学を生んだ社会構造にまで分析し,述べています。メディアのありかたへの批判、メディア・リテラシーの啓蒙書でもあります。今回、遅ればせながら私はこの本を読んで、講義に使えるネタをまたたくさん見つけることができました。

 しかし、人は自分の意見に真っ向から反対する意見、あるいは自分の利益を害するような意見を快く思いません。この本は社会の通念に反対している時点で、良書であっても売れない(売れなかった)本であろう、と推察します。

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 以前、このブログのシリーズでカーソンの「沈黙の春」を批判したところ(ブログ[2016.04.26] レイチェル・カーソン「沈黙の春」の暗黒面)、批判(攻撃)されています。「東京工科大学の恥晒し記事と犯罪者・片桐利真」だそうです。

http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-162.html

もちろん、私は自分の意見を述べたわけです。そして、その意見を批判する意見は敬重し、自分の意見を再検討します。しかし、匿名の方の個人攻撃や人格攻撃はうれしくありません。やはりへこみます。

 以前、私は中部大学の武田教授(テレビによく出ている方ですね)のブログの内容に対して、署名付きメールで意見を述べたことがあります。武田先生からは再検討した旨のメールが返信され、ブログも修正されました。科学的な意見のやり取りはやはり実名で行うべきであると存じます。

 少し脱線しました。

 おそらく、この著者の方も、同じような経験をされたと、心配します。特に、私の場合は現状で経済的な利害関係をもたらす話題ではありませんが、この図書の中には、その批判しているニセ科学で商売をしている方や企業の方もおられます。

 他人とコンフリクションを起こさずに、平穏無事に生きていきたいなら、この著者の方や私のような行動は取れません。しかし、自分の意見の表明を避けるような生き方は,私にはできません。

以下に、この本の目次を備忘として書き写したものを載せます。この本の取り上げている話題をイメージできると思います。コピペではないので、誤字等があるかもしれません。ご容赦ください。

はじめに

第1章 健康情報番組のウソ

 幼児まで被害に遭った白インゲン豆ダイエット、TBSのいい加減さに医療関係者は怒った、白インゲン豆にダイエット効果なし、納豆ダイエットのウソ、最初に結論ありき、みのもんた症候群、寒天ブームも健康被害生む、レタスの快眠作用も捏造か、捏造事件を契機に起きた奇妙なバッシング、メディアは責任を取ってくれない

第2章 黒か白かは単純すぎる

 量の大小を考える、中国産野菜報道もトリックだった、単位を理解する、日本ではDDT報道もゆがむ、WHOが利用を促進、リスクとベネフットを考える、PCB処理も難航、北九州市が立地検討、科学者が煽動

第3章 フードファティズムの世界へようこそ

 効能成分を食べるつもりがかえって有害に、紅茶は◯でもミルクティは×、β—カロテンで発がん率上昇も、フードファティズムが氾濫

第4章 警鐘報道をしたがる人びと

 世間を恐怖に陥れた環境ホルモン騒動、人への環境ホルモン作用は確認されず、低用量効果も否定された、悪いニュースはよいニュース、冷静さを欠く化学物質過敏症報道、二重盲検法、患者数も誇張か、遺伝的な個人差が関係?、かわいそうな患者

第5章 添加物バッシングの罪

 三菱自動車の車は燃えやすい?、添加物バッシングが燃えさかった二〇〇六年、間違いだらけの本、誤解が広がっていく、バッシングのせいで消費者は困った事態に、バッシングが生んだ最大の影響

第6章 自然志向の罠

 オーガニック食品は安全じゃない?、作物は体内で天然農薬を作っている、有機のおいしさは新しいから?、天然農薬かファイトケミカルか

第7章 「昔はよかった」の過ち

 現在の味噌はアメリカ化の産物、野菜不足で短命だった日本人、懐古主義では解決しない、アレルギー増加は清潔化原因?

第8章 ニセ科学に騙されるな

 マイナスイオンが大流行、メディアが騙された理由は、マイナスイオンブームが再燃?、「自らの伝言」は教育・政治の場面に、国会質問、自治体広報誌にも登場、子どもは信じていない

第9章 ウソつき科学者を見破れ

 遺伝子組み換え大豆が問題に、ずさんな実験結果、日本で騒動が再燃、騙しのテクニックの見本市、科学の衣をまとった売名行為、ナンチャッテ学者の倫理観

第10章 政治経済に翻弄される科学

 バイオ燃料ブーム、トウモロコシが燃料用エタノールに、地産地消の商品、燃料vs.食料、抜本的な農業政策が必要、ブレイクスルー技術が必要、トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い、規制強化が有利になるマレーシアやインドネシア

第11章 科学報道を見破る十カ条

 フリーの科学ライターの懐具合は、科学者の倫理、科学者がブログで情報発信、日本語の壁、NGOの科学を使った企業テロ、優れたリスクコミュニケーション、科学報道を見破る十カ条

おわりに

片桐 利真

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