スプレー式の発泡ウレタンはなぜ固まるのか(江頭教授)
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発泡している樹枝は発泡スチロールを始めとして見慣れたものです。高い断熱性を持ち、やわらかいので保温材や緩衝材として利用されています。
スプレー式の発泡ウレタンは、その名の通りスプレー缶に入っている原液をシューとばかりにふき出すと、泡立った後に固まって発泡ポリウレタンができる、と言う便利な製品です。今回はこの製品の仕組みについて考えてみたいと思います。
まず、スプレーから泡が出てくる、という光景はけっこう見慣れたものです。スプレー缶に加圧されて詰め込まれた気体と液体が大気圧に解放される。その瞬間に気体が膨張して液体と一緒に泡を形成する、というわけでここまでは特に疑問はなさそうです。
問題は、というかこの製品の特徴は発泡したあとで液体が固まってウレタン樹脂になる、という点です。スプレー缶の中身は缶の中では安定していて、外にでた段階ではじめて重合を開始して固体となる。一体、この重合反応はどのようなきっかけで起こるのでしょうか。
接着剤では2つの液を混ぜ合わせて固めるタイプの接着剤がありますが、あれは分かり易いですね。2つの原料分子が混合されることで重合がスタートする。ポリウレタンの場合はイソシアネートとポルオールの分子を別々の液に入れておいて混ぜ合わせれば良いわけです。
でも、スプレー缶の中が2つに分かれていて出口で混合されている、と考えるのは無理がありそうです。缶のなかはシンプルな構造であり、一種類の液体がそのまま外部に放出されて重合が始まるのでしょう。では、その液体はどうやって缶の外にでたことを感知するのでしょうか。
可能性のあるものを挙げてみましょう。
先ずは圧力の変化。発泡が起こるのはこの圧力変化が原因でした。でもスプレー缶をつくる工程を考えると、これは難しそうです。スプレー缶に封入する前から加圧されたプロセスで液体を製造しないと固まってしまうのですから。
では、スプレー缶内で加圧に使われてた気体(缶内では液体だったかも)が失われることを利用してみてはどうでしょうか。缶内に重合を抑止する成分を入れておいて、缶からでた瞬間に分離する、というシナリオです。でも、重合を抑止する成分、と気楽に書いていますが、これも難しそうです。スプレー缶がいつまで保存されるのかわからない以上、相当強力な抑止効果が必要ですが、缶からでたらきれいさっぱり抑止効果が消える、そんな抑止剤をつくるのはかなりの難問だと思います。
もう一つの可能性として外気との接触はどうでしょうか。窒素は難しいでしょうが、酸素との接触をきっかけで反応を起こす、というのはあり得そうですね。先の圧力の場合と同様、酸素のないプロセスで液の充てんまで行う必要がありますが、こちらの方はまだなんとかなりそうです。
実はこの発泡ウレタン、空気中の水蒸気と反応して硬化するのだそうです。水蒸気なら湿度管理をきちんと行えば特別な製造プロセスは必要なさそうですね。
なお、発泡ウレタンの原液にはモノマーが含まれているのではないそうで、すでにある程度重合が進んだウレタンが入っているそうです。確かに泡が維持できるような短い時間で硬化させるにはモノマーでは間に合わないのでしょうね。
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