「くじら尺」「警察」「永六輔」(江頭教授)
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「男はつらいよ」は1969年から1995年まで続いた映画シリーズです。監督は山田洋次、主演は渥美清で渥美清さんが亡くなったため1995年で終了となりました。
さて、この「男はつらいよ」のシリーズ第18作、1977年正月映画(1976年12月公開)の「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」には主人公 車寅次郎が露天商として「くじら尺(尺貫法にもとづくモノサシ)」を売っている場面があります。だいたい、「家を建てるにも、服を作るにも、このくじら尺をというものが無いと始まらない。これが無くては職人さんも困っちゃう。」といった口上を述べています。同時にその様子を怪訝な表情で見つめる警官が写されていますが、その警官役が永六輔なのです。
永六輔氏は多彩な人物で放送作家からタレントとなり、晩年はラジオのパーソナリティとして活躍していた人物です。「上を向いて歩こう」など歌謡曲の作詞家としても有名です。
さて、件の映画のシーンは「くじら尺」「警察」「永六輔」という三大話になっているのですが、当時の文脈からすると、これは「伝統的な単位系」の使用を禁止する「国家権力」に反対する「文化人」という構図になっています。
日本古来の単位系は尺貫法で長さは尺や寸という単位、重さには貫、匁といった単位が用いられています。「一寸法師」や「百貫デブ」といった言葉に昔の表現が残っていますね。
この尺貫法の使用をやめてメートル法、あるいは SI に移行する。日本の近代化のために必要だと判断され、法的な拘束力をもってメートル法の利用を推進したことは、国際貿易に依存する日本の立ち位置を考えると間違ったことではないと思います。とはいえ、国内でしか仕事をしない建築業や着物類をつくる職人のひとたちまで規制する必要があるのだろうか。
そもそも、尺貫法は日本古来の文化であり守ってゆくべきではないか。これが永六輔氏の考えであり、当時、その考えを広めていたのです。
現在でも計量法によって指定される正式な単位系はSIであり、日本においてはSIを使う事が正しい事とされています。それでも、この運動の影響か、尺貫法の利用も認められる(黙認される)ようにはなっています。
科学の世界では「SIを使う」ということが常識となっていますが、単位系は科学のみならず人々の生活すべての分野に反映に影響するものです。そう考えると「SI」が常に正しい、という訳では無いのですね。
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