森林総研が「木のお酒」をつくるらしい(江頭教授)
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「木からお酒をつくる」そんなニュースを見つけました。発信元は森林総合研究所(森林総研)の
という発表です。
木材を構成しているセルロースはデンプン同様、糖(単糖)が重合した多糖類です。米から造られるお酒は、お米の中のデンプンを分解し、酵母で発酵させてアルコールを造るわけですから、デンプンの代わりにセルロースを分解できれば木のお酒ができる、というわけですね。
お米からお酒を造るとき、デンプンを分解するのは麹(こうじ)に含まれるコウジカビの酵素ですが、この酵素ではセルロースを分解することができません。今回発表された技術ではセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素を別途準備して木のセルロースを分解させ、それと同時に酵母によってアルコールを生成させたそうです。
実は、この研究とよく似た実験を見たことがあります。私が大阪大学基礎工学部にいたころ、PBLの授業で学生さんのグループが選んだテーマの中に「竹を利用したお酒」がありました。
竹のセルロースをセルラーゼで分解、発酵させてアルコールを含んだお酒を造る、というコンセプトは同じでした。しかし、セルラーゼを含んだ液体にそのまま竹を入れてもほとんど分解は起こりません。セルロースと酵素の分子があまり接触しないからだろう、ということで竹を熱水処理することで見事にアルコール発酵した「竹のお酒」を作ることができました。
が、しかし。
「竹を熱水処理する」と書きましたが、こんな処理をしてしまっては竹に含まれる香りの成分も壊れてしまいます。できあがった「竹のお酒」、あえて言えば焼き芋みたいなにおいがする液体で、とても竹の香りを感じさせるものではありませんでした。
今回、森林総研から発表された技術のキーポイントは木材を細かく砕きながら処理することによって木材のもっている香り、風味を壊すことなくセルラーゼで処理できた(湿式ミリング処理というそうです)、という点にあると思います。木材からアルコールを造るという技術はバイオ燃料製造を目標として研究が続けられている分野なので、この湿式ミリング処理もその流れで注目されたのでしょう。科学技術の発展は時に意外な分野にも波及効果があらわれるのですね。
PS: 木から造ったお酒、どんな名前になるのでしょうか。「灘の木一本」とか。
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