SDGs ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」(江頭教授)
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サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals, SDGs)、つまり「持続可能な開発目標」については以前このブログの記事でも紹介しています。「アジェンダ21」「ミレニアム開発目標」といった国連の行動計画の最新版であり、2030年に向けて世界(正確には国連加盟国)が目指すべき17の目標を掲げています。
今回は、そのうちの6番目の話をしましょう。
ゴールその6は「安全な水とトイレを世界中に」です。
世界に全体出考えると安全な水をやトイレにアクセスできない人がたくさんいる、だからこそのゴール設定なのですが、日本にいると何をいまさら、と思えます。
そもそも、日本は降水量が大きな地域にある海に囲まれた島国で、豊富な雨が川となり、比較的短い距離で海に注ぐ環境にあります。島国なので複数の国をまたぐ「国際河川」もありません。この豊富な淡水資源を背景に、上下水道の設備も良く行き届いていて、すでにこのゴールは達成している、と言えるでしょう。
では、水資源に恵まれた日本にとって、ゴールその6は苦もなく達成される低いハードルなのでしょうか。いえいえ、この「安全な水とトイレを世界中に」もゴールを短く表現したものなので、実際にはもっと広い意味があるのです。
たとえば、ターゲット6.3は
2030年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する。
となっています。このターゲットが示す目標は日本の水質汚濁防止法が目指すところと重なっています。このターゲット6.3の評価指標(インディケーター)の一つとして「6.3.2 良好な水質を持つ水域の割合」が挙げられていますが、これは環境基本法に基づいて決められた「環境基準」をもとに水域を監視する仕組みと同じ趣旨のものです。
水質汚濁防止法が成立してからほぼ半世紀。日本であからさまな法令違反は考えにくい状況になっていますから、日本ではターゲット6.3も達成されている、と言えるでしょう。
しかし、このターゲットが達成されているのは単に「日本が恵まれた環境にあったから」では有りません。悲惨な公害被害に対する反省から、環境基本法、水質汚濁防止法といった法整備が行われ、その法規制を満足するための技術開発が約半世紀にわたって続けられてきた結果なのです。
私は「水質汚濁防止法」と類似したゴールが国連も目標であるSDGsに取り入れられた、ということには大きな意義があると考えています。これは誰もが「きれいな水にアクセスする」権利があるという意味を越えて、「何人も汚染物質を環境に放出してはいけない」という義務がある、と宣言しているからです。
公害問題を解決するための法的枠組みは一つの国のなかでは有効ですが、複数の国にまたがる問題を解決するには力不足です。しかし、このターゲット6.3の様な国際的な「義務」の確認を通じて、国連のSDGsが国際的な法的枠組の足がかりになる可能性があるのでは、そんな期待ができる取組だと思います。
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