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2018年6月

2018.06.29

冷凍空調施設からの温室効果ガスの排出はなぜ増えるのか(江頭教授)

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 日本で排出される温室効果ガスの総量、現在2016年の実績が報告されていますが、ここ三年ほど減少を続けている、という話を以前紹介しました。これは温室効果ガスの主要な部分を占めるCO2の排出量が減少していることが大きな要因なのですが、温室効果ガスにはCO2以外にもCH4、N2Oなどがあり、それらの増減も総排出量に加算されています。

 温室効果ガスとして集計されている7種のガスについて、2015年度と2016年度を比較するとCO2、CH4、N2Oの排出は減少しているのに対して、その他のガスは増加しているといいます。中でもHFCs(ハイドロフルオロカーボン類)の増加は著しい。HFCsは冷凍・空調の分野で冷媒として利用されており、その分野からの排出が増加傾向にあることがその原因だといいます(下図)。

 さて、これは一体どういうことなのでしょうか。確かに以前に比べて夏に暑い日が増えたような気はします。ですが空調がどんどん新設されているとは思えません。同じく冷凍倉庫が大人気だ、という話を聞いたこともありません。空調冷凍の分野はどちらかと言えば成熟した産業分野だと思うのですが...。

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 図は「フロン類対策の今後の在り方に関する検討会(第1回)」の資料として配付された「フロン類対策に関する課題及び論点」という文章からの引用です。

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2018.06.28

ありがとう!実験助手の寺地さん(江頭教授)

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 2018年6月27日、今日は飲み会から帰ってきてこのブログを書いています。今日の飲み会、じつは本学応用化学科で実験助手をしてくれていた寺地 勇人さんの退職に際しての送別会です。

 本学の応用化学科が設立されたのは2015年。全くゼロからのスタートだったのでカリキュラムや授業、学生実験もすべてゼロから立ち上げでした。寺地さんはその立ち上げに本学科の一員として尽力してくださいました。学生実験室の工事からはじまって大量に納品された実験器具の開封と収納。学生実験のTAさんをとりまとめて新しい実験を試行錯誤で作り上げる仕事は普通の学生実験助手の仕事を超えた大変さがあったと思います。3年生までの学生実験が一通り実施され、それぞれの実験内容が完成したこの時期に退職されて新しい職場で活躍されるとのこと、その門出をお祝いする一方で名残惜しい思いもあります。

 寺地さんは本学の応用生物学部のご出身なので、応用化学科唯一の東京工科大学出身者でした。同時に年齢的にも他の教員よりぐっと学生に近かったので、本学の学生に近い視点から、我々他の教員が見落としがちな注意喚起や指摘をしてくれたこと、本当に感謝の気持ちで一杯です。

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2018.06.27

学長賞授賞式(江頭教授)

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 東京工科大学の学長賞は成績優秀者を讃えるための制度であり、同時に学生に首席をめざして努力することを促す仕組みでもあります。実際、本学の規定には

 学生の勉学意欲の向上と有意な人材教育の一助として、(中略)各学部において、優秀な学業成績を収めた者を表彰する

とあります。表彰される学生は

(1)本学在学期間中の成績評価で、優秀な成績を修めた者

これは在学期間全体での成績ですからいわゆる首席のことですね。この人達の表彰は卒業式の際に行われます。

 その他にも表彰の対象者が規定されています。

(2)各学部または各学科の2,3,4年次に在籍する者のうち、前年度の成績評価で最も優秀な成績を修めた者

(3)各学部または各学科の2,3,4年次に在籍する者のうち、前年度の成績評価で優秀な成績を修めた者

こちらは在学中に表彰されることとなります。(2)と(3)の違いは「最も」のあるなし。要するに(2)が最優秀者、(3)が優秀者です。(2)は一名、(3)は若干名で学部や学科によって個別に規定されています。

今回、私は(3)の受賞学生の表彰式に参加してきました。

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2018.06.26

「ダイベストメント」ってどうだろう?(江頭教授)

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 「ダイベストメント」は「インベストメント(投資)」の反対で、投資しない、という意味だそうです。倫理的に問題がある、積極的には賛成できない事業やその担い手企業に対して投資をしないことで世の中をよくしていこう、という考え方だと言います。倫理的に良いこと、賛成できることに投資(インベストメント)することの逆だ、という意味ですね。

 さて、地球温暖化問題への対策をこの「ダイベストメント」で推進しよう、という考えがあるそうです。石炭を利用する産業に対して投資をしないことで、例えば石炭火力発電所の建設に融資しないことで、エネルギーの脱炭素化を推進しようというわけです。

 まず、私はこの「ダイベストメント」を実施する人や推進する人に別に反対はではありません。経済学や金融の専門家でもないので[ダイベストメント」の効果を完全に理解しているわけでもありません。しかし、私自身はこれには乗れないなと感じている、今回はその理由を書いてみたいと思います。

 端的に言うと

 一部の人が「ダイベストメント」をしても、別の人が「インベストメント」するんじゃないの?

という事です。

だからこそ、皆が「ダイベストメント」に参加することが必要なんだ!

確かに。

でも、それって法的規制と同じだよね?なら、法的規制の方が良くないかな。

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2018.06.25

スクールバスの車内アナウンス(江頭教授)

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 本学の八王子キャンパス、八王子駅からは距離があって歩くのは少し大変(30分以上かかるそうです)。そこで学生の通学、教職員の出勤のために八王子と大学キャンパスをつなぐスクールバスが運行されています。最寄駅は横浜線の八王子みなみ野駅で、こちらからは歩いてゆくことも可能ですが、こちらとキャンパス間にもスクールバスが運行しています。(スクールバスについてはこちらの記事も。)

 さて、私も八王子駅からキャンパスまでのスクールバスを利用しているのですが先日ふと気が付くとバス内に車内アナウンスが流れていました。私ははじめて気が付いたのですが、実は昔から流れていたのかもしれません。ともあれ、手持ちのスマートフォンで録音してみました。(下の写真をクリックするとその際の録音が流れます。)

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2018.06.22

温室効果ガス削減量認証制度「J-クレジット」(江頭教授)

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 前回前々回の記事では「カーボンオフセット」について紹介しました。カーボンオフセットとは炭素排出量削減のための「お布施」ではなくて、「どうしても削減できないCO2の排出を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる」という取引のことです。この取引が有効に作用する、つまり温室効果ガスの排出削減に役立つためには削減量の信頼性が決定的に重要であり、公的な認証機関が必要である、という結論でまとめました。

 さて、今回はその「公的な認証」について紹介しましょう。「J-クレジット制度」はそのWEBサイトにて

J-クレジット制度とは温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度です。

と紹介されています。CO2に限らず、温室効果ガス全体が対象ですが、実質的には「カーボンオフセット」で説明した「CO2の排出」を埋め合わせるための「削減や吸収」を定量的に表し、なおかつその信頼性を保証する制度ですね。

 実際、「J-クレジット」の用途として「温対法・省エネ法での活用」などと並んで「カーボン・オフセットに使う」ことが挙げられています。

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2018.06.21

カーボンオフセットの信頼性(江頭教授)

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 カーボンオフセットについては前回の記事で紹介しました。「どうしても削減できないCO2の排出を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる」という取引のことで、カーボン(=CO2排出量)を他の人に埋め合わせてもらう(=オフセットしてもらう)、ことから命名されたのでしょう。

 さて、日本でもカーボンオフセットに関する取組が行われています。環境省のWEBサイトにも「カーボン・オフセット」と題したページがあり、政府の取組が紹介されています。そのなかで指針・ガイドラインとして「我が国におけるカーボン・オフセットの推進に向けた展望」という文章が公開されていました。

 カーボンオフセットは意義のある活動であるが日本での広がりはまだまだ。普及に向けていろいろな施策をします。という内容なのですが、その中で以下のような気になる記述がありました。

また一方で、近年においても国内外でカーボン・オフセットに関連した詐欺事件等が報告されていることから、信頼性のあるカーボン・オフセットの取組を推進していく体制を充実させていくとともに、このような事件を未然に防ぐためにも市民のカーボン・オフセットに関する正しい理解を普及していくことが重要である。

この文章は2014年の日付ですから、実際には2013年年度にこのような事件があったのだと思います。具体的な事件の内容は調べられなかったのですが、カーボンオフセットについて、どのような詐欺が起こりうるのかを考えて見ました。

 カーボンオフセットの当事者は「どうしてもCO2の排出を削減できない人」と「他の場所での削減や吸収を行う人」の二者ですが、「排出している人」がお金を払ったのに、「削減する人」が実際には削減しない、という形の詐欺が一番ありそうです。つまり、「削減する人」を装った加害者が被害者である「排出している人」からお金をだまし取る、という訳です。

 実際の詐欺事件はこのようなものだったとしても、他の形態の詐欺がありうるのではないでしょうか。

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2018.06.20

カーボンオフセットとは(江頭教授)

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 世の中には「カーボン○○」と名のつくものがいろいろあるのですが、今回紹介したいのは○○に「オフセット」といれた「カーボンオフセット」です。

「黒い色の印刷のこと?」

「いや、オフセット印刷とかじゃなくてですね…。」

カーボンはともかく、オフセットという言葉は耳慣れないのではありませんか?移す、移動させる、といった意味から転じて負債などを何かで相殺する、埋め合わせる、といった意味をもっています。

 そこで「カーボンオフセット」ですが「どうしても削減できないCO2の排出を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる」という取引と活動のことを意味しています。

 「自分はCO2の削減ができない、だから他の人にやってもらおう。」とは虫の良い話。でも、そこはそれ、ちゃんと対価は必要で、有り体に言えば代わりにお金を払うことでこの取引は完結します。

 逆に考えるとお金を払うだけでCO2が削減できてしまう。そんなにお気軽でよいのでしょうか?何となくずるをしているような、と感じるひともいるようです。

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図は環境省のこちらのページから。

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2018.06.19

再び「授業点検」のこと(江頭教授)

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 授業点検。授業は本学の授業ことです。点検するのは教員、その授業を担当していないほかの教員が点検を行います。この授業点検についてはこちらこちらの記事でも紹介しています。

 本学で行われる授業は順番に点検の対象に選ばれます。対象になった授業を他の教員数名が参観し、授業後にその授業の内容について話し合います。その授業の学科の教員、他の学科の教員、場合によっては他学部の教員も参加するので、いろいろな視点から授業の内容ややり方が吟味されることになります。

 さて、今年度も前期の授業点検が複数の授業で行われました。私も点検者として授業を見学させてもらうこととなりました。さて、これがなかなかのものでした。

 授業開始時に、まずWEBベースの学習支援システム Moodle を利用した開始時アンケートが行われました。これは出席を兼ねたもので、予習した時間、予習のなかで分からなかったポイント、前回の授業で難しかった概念などを問うものです。これをリアルタイムで集計し、その結果を学生と見ながら授業の重点を決めてゆきます。

 同時に授業の学習内容のチェックリスト、○×式の確認問題や筆記問題を含んだ課題ワークシートが配布されて、学生はワークシートに記入することで自らアクティブに授業に参加してゆきます。

 教室の二つ配置されたプロジェクターを個別につかって、一つは授業内容のレジメを、もう一つはこのワークシートを写しながら、個別の内容説明が全体の授業の流れのどこに当たるのかが一目瞭然となるように説明されていました。教科書の要点を投影したレジメで説明し、それに対応するワークシートの問題を各自が解きながら授業を進めるという形式です。

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 授業を見学した後はこの「授業点検シート」に記入。これを元に、点検者役の先生が授業を行った先生と意見交換をします。

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2018.06.18

オープンキャンパスを実施しました(江頭教授)

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 以前このブログでも紹介した通り、6月17日の日曜日、本学八王子キャンパスのオープンキャンパスが開催されました。われわれ応用化学科も片柳研究棟7階の学生実験室を中心に、教員、アルバイトの学生諸君が協力して訪問してくれた高校生諸君、ご父兄の皆さんをお迎えしました。

 今回のオープンキャンパスは今年度最初のオープンキャンパスです。

 今年のオープンキャンパス、応用化学科では、学科紹介と模擬授業、体験実験や各研究室によるデモ実験を含めた研究紹介が内容でした。これは例年通りなのですが、全体のスケジュールはやや変更されています。大学全体の紹介と学部紹介に間に入試に関する説明会が開催されることとなりました。このため、10時の開始時間から学部紹介まで参加していると、そろそろお昼ご飯かな、という時間になります。

 このスケジュールですと、学科の企画に参加するのは午後に、となるようです。応用化学科の片柳研究棟7階の会場を訪れる人数、今回は午前より午後が多くなりました。みなさん、本学の厚生棟食堂でのフリーのランチの後で学科の会場を回られたのでしょう。

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2018.06.15

人間に必要なエネルギー(カロリー)はどれくらいか(江頭教授)

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 最近、人間とエネルギーについていろいろと書いているこのブログ(前回前々回など)。今回は趣向を変えて、エネルギーはエネルギーでも生き物としての人間が必要なエネルギー、つまり食事から採るカロリーについて考えてみましょう。

 人間がどのくらいのカロリーを必要としてるか。これについては厚生労働省から日本人の食事摂取基準についての資料が発表されています(「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」など)。

 この食事摂取基準はなかなか詳細な資料で必要カロリーも「1人あたり○○カロリー」などという大雑把なまとめ方はされていません。必要なカロリーは、まず男女で違う。年齢によっても違います。さらに生活中で体を動かす度合い(身体活動レベル)によって3グループに分けて、それぞれに必要カロリーを計算しているのです。

 ちなみに、私(江頭)の必要カロリー量は 2100kcal となります。運動量が少ないので小さめ、とも言えますが男なので大きめな値と言っても良いでしょう。

 さて、必要カロリー量の平均値をどのように求めるべきでしょうか。いろいろ考えられますが、ここでは思い切ってキリの良い値と言うことで、1人1日当たりの必要なエネルギーを 2000kcal としてみましょう。

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2018.06.14

人間に必要なエネルギーはどのぐらいか(江頭教授)

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 前回は「人間にはどのぐらいのエネルギーが必要か(江頭教授)」と題して、現在の日本人が1人平均でどのぐらいのエネルギーを消費しているか、調べてみました。結果は

 一次エネルギー供給で毎年 150GJ、 エネルギー消費では 100GJ

というものでした。エネルギー変換でのロスを考えると実際に利用されるエネルギーの消費は一次エネルギーの供給よりすくなくなるのでしたね。

 さて、この年間 100GJ とか 150GJ といった値、一体どの程度の値なのか簡単にはイメージできないのではないでしょうか。今回はなるべくイメージできる形でこのエネルギーの量を表現してみたいと思います。

 まず、エネルギーが全て電力だと考えてみましょう。1年間は 365×24×60×60 = 3.15×107秒ですから、100GJ=100×109Jをこれで割り算して

100×109J/3.15×107s = 3.17×103W

となります。電力として考えると約 3kW となります。100Wの電球30個を付けっぱなしにする、というイメージですね。(LED電球が普及してきたので、この表現もそのうち通じなくなるのでしょうか。)

 こんどは、エネルギーが全てガソリンだったとしたらどうでしょうか。ガソリンの発熱量を33.37MJ/L とすると(この値は2013年以降の統計で用いられている値を「エネルギー源別標準発熱量一覧表」から引用しました)、

100×109J/33.37×106(J/L) = 3.00×103L

となります。年間ガソリン3kLです。一日当たり 8.2L。燃費12km/Lの車なら毎日100km走る計算です。

 さて、エネルギー源別に最終エネルギー消費に占める割合が総合エネルギー統計に示されています(下図)。

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2018.06.13

人間にはどのぐらいのエネルギーが必要か(江頭教授)

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 先進国の豊かな生活を続けるためには充分なエネルギーの供給が必要だが、エネルギー資源が枯渇すれば生活水準を落とす必要がある。サステイナブル工学の役割は、技術の力で生活水準を持続できるようにすることである。これは昨日の記事でも述べたことです。

 では豊かな生活を維持するにはどのぐらいのエネルギーが必要なのでしょうか。一人の人間が必要とするエネルギーはどのくらいなのか、これにはいろいろな見方があると思いますが、今の日本人の生活が豊かな生活を代表していると考えて、日本人が一人当たりに使っているエネルギーを「人間が必要とするエネルギー」の指標だ、と考える事もできると思います。前回同様「総合エネルギー統計」をみると、下図のようなグラフが載っていました。

 2005年以降、一人当たりのエネルギーは減少傾向にあり、直近2016年度のデータは 155GJ/人 となっています。

 日本の人口は約1億3千万人だから 155 倍すると 約200億。日本全体では 200億GJか。PJ(ペタジュール)はGJ(ギガジュール)の千倍の千倍、つまり6桁上だから200億GJは20,000PJ くらいになるはずだが...。あれ、前回のグラフだと 13,321PJ となっているんだが?

 気がついた人もいたと思うのですが、今回の記事ではエネルギーということばをかなり曖昧に使っています。下図のエネルギーは「一次エネルギー国内供給」とありますが、昨日の記事のグラフで示されているのは「最終エネルギー消費」。両者は異なるものなのです。

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2018.06.12

エネルギーの限界と成長の限界(江頭教授)

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 産業革命以来の科学技術の発達によって、先進国に暮らす人々、例えば私たち現在の日本に生きる人間は豊かな生活を享受してます。具体的には、充分な量の食料が供給され、多種多様な衣服が提供され、快適な居住環境が整備されています。それに加えて娯楽から学修まで多種多様な情報源に接することも容易ですし、伝染病や災害の制御によって長い寿命を生きることが期待できるのです。

 この科学技術の成果を全肯定するのがサステイナブル工学の前提であり、その一方で、このような豊かな生活は現状のままでは維持できず、持続可能なものに根底的に変革されるべきだ、というのがサステイナブル工学の理念です。

 では、なぜ現在の科学技術文明は持続不可能だ、と考えるのでしょうか。その理由は一つではありませんが、大きな、おそらく最大の理由の一つはエネルギー資源の有限性だと私は考えています。

 現在の文明は石油に浮かぶ楼閣であるが、石油資源には限りがある。いつか石油を掘り尽くして持続不可能な状態に陥る、これが一番素朴なエネルギー資源の有限性への認識でした。やがて、石油の枯渇が温室効果ガスによる気候変動に置き換えられ、化石資源はあっても使えないもの、大気中のCO2の限界によって制限されるもと、という認識が一般化しました。いずれにして、エネルギーの限界こそが成長の限界である、すくなくとも最初に訪れる限界である、という認識に変化はないでしょう。

 では、有限のエネルギー資源、という意識はいつ頃できあがったものなのでしょうか。

 まずは下の図を見てください。これは資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」から引用した日本の最終消費エネルギーの経年変化です。

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2018.06.11

6月17日(日) オープンキャンパスを実施します(江頭教授)

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 大学とはどんなところなのか?大学にいる人間にはその風景が当たり前すぎて誰もが良く理解してくれている様に思い込んでいるふしもあるのですが、外部の人、特にまだ大学というものに行ったことがない高校生諸君にとって、大学はやっぱりよく分からないところでしょう。そう考えると大学が一般の人に開放される機会は、大学を知る、という意味で貴重なチャンスです。(もっとも大学は普通の日でも別に閉鎖されているわけではないのですが...。)私が高校生の頃にも学園祭などで大学を訪れる機会があり、それなりに「大学とはこんなところか」と思ったものでした。

 さて、最近では多くの大学で高校生向けの見学会「オープンキャンパス」が開催されているので、実際に大学を見る、というチャンスは確実に増えています。本学でも例年、この季節から夏休みに渡って数回の「オープンキャンパス」を実施しています。

 本学の八王子キャンパスでの直近のオープンキャンパスは6月18日、つまり来週の日曜日に実施します。

 八王子キャンパスのオープンキャンパス、予約不要で入退場自由ではありますが、10:00からの大学説明会・入試説明会から参加してもらうのが標準のコースでしょう。各学部の説明会は11:15から。

 今年度の、工学部の学部説明会では従来からの学部長の説明に加えて、学生による「コーオプ実習」の体験報告を行う事としました。「コーオプ実習」は企業での8週間にわたる有給の就業体験。本学工学部の特徴的な教育システムですが、ここでは入学希望の高校生諸君の少し先輩の学生さんから自身の経験に基づいた話をしてもらおう、という企画です。

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2018.06.08

第1期(クォーター制)本日終了です。(江頭教授)

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 4月にスタートした新年度、従来の前期後期の学期制なら今頃は「前期も半分過ぎて折り返し点です」ということになるでしょう。実際、本学科の1、2年生にとってはその通り。気を引き締めて前期残りの期間を充実させましょう。

 ただ、応用化学科の3年前期の授業はクォーター制で行われています。クォーター制とは前期を第1期、第2期の二期に分けて行うもの。本来は1年を4期に分けて行うものですが、本学のクォーター制は前期後期制の一方の期を二つの分ける、やや変則的な制度です。(ハーフ・アンド・ダブルクォーター制とでもいうのでしょうか?)

 以前も紹介しましたが、これは本学工学部の教育の重点の一つ、コーオプ実習制度に対応したものです。クォーターの期間は、1週間に受ける授業の科目数は少なくなりますが、一つの科目は原則週2回実施します。(一部2回より多い科目もあります。)半分の科目を倍のスピードですすめるのがクォーター制。そのため、本年度の第1期が今日(6月8日)という早い時期に終了となるわけです。

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2018.06.07

障害学生支援について講演していただきました(江頭教授)

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 東京工科大学では月に一度、八王子キャンパス、蒲田キャンパスでそれぞれに「全学教職員会」と称した講習会を開いています。両キャンパスはネットワークでつながれており、同じ内容を両方のキャンパスからみることができる様になっています。学長が大学の運営方針を説明する回もありますし、各学部がそれぞれの教育目標を発表する回もあります。時には外部講師をお願いして大学の教育にかかわる最新の話題を解説していただくこともあります。

 そんななか、今回の講演会では筑波大学 人間系(障害科学域)の竹田 一則 教授に「障害者差別解消法施行後に大学に求められる対応と課題について」と題したお話しをしていただきました。

 ご講演は大学の学生に占める障害者の割合とその経年変化の話から始まって、「障害者の権利に関する条約」の批准によって改正された日本の「障害者基本法」が掲げている障害者支援のとらえ方についての紹介に進みます。その基本は

「障害」は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されている

という「障害」についての理解に基づいて、

社会的障害を取り除くのは社会の責務である

という考え方だといいます。

 車いすと段差のように、段差がなければ車いすは自由に移動ができます。まず、車いすを使う必要があるという状態と、通路に段差があるという状態が組み合わされて始めて問題が起こる。車いすが必要だ、という状態が変わらない、変えられないのであれば、段差の方を無くしてしまえばよい。そんな考え方です。

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2018.06.06

エネルギー消費と温室効果ガス(江頭教授)

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 日本が排出している温暖化ガスはどのぐらいなのか。先日のこの記事で2016年度の値(少し前ですが、データの最新版はこの年度のものです)が二酸化炭素換算で13億700万トンであったこと、2013年度をピークとして3年度連続で減少している事を紹介しました。

 と、ここまでの書き出し部分は昨日の記事と同じです。昨日は「今回は日本の同じ期間のGDP(国内総生産)の推移を見てみましょう」と続けたのですが、今回は日本国内でのエネルギー消費との比較をしてみたいと思います。

 エネルギー消費については資源エネルギー庁に「総合エネルギー統計」と題するページがあり、いろいろなデーターをダウンロードすることができます。それに基づいて、一次エネルギーの国内供給の値をグラフ化したのが以下の図です。

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 まず、縦軸の原点が0になっていない事をお断りしておきましょう。大体の変動幅は2006年から2016年度までで約10%程度。温室効果ガスの排出量も同じく10%程度の変動幅ですから、細かい変化をみるために変動部分を目立たせる様なプロットになっています。

 さて、一次エネルギー供給と温室効果ガスの排出量のグラフを比べてみましょう。

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2018.06.05

経済成長と温室効果ガス(江頭教授)

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 日本が排出している温暖化ガスはどのぐらいなのか。先日のこの記事で2016年度の値(少し前ですが、データの最新版はこの年度のものです)が二酸化炭素換算で13億700万トンであったこと、2013年度をピークとして3年度連続で減少している事を紹介しました。

 今回は日本の同じ期間のGDP(国内総生産)の推移を見てみましょう。内閣府のホームページにはズバリ「国民経済計算(GDP統計)」と題するページがあり、いろいろなデーターをダウンロードすることができます。それに基づいて、実質GDPの値をグラフ化したのが以下の図です。

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 まず、縦軸の原点が0になっていない事をお断りしておきましょう。大体の変動幅は2005年から2017年度まででやく10%程度。温室効果ガスの排出量も同じく10%程度の変動幅ですから、細かい変化をみるために変動部分を目立たせる様なプロットになっています。

 さて、GDPと温室効果ガスの排出量のグラフを比べてみましょう。

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2018.06.04

失敗のすすめ(片桐教授)

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 今週、学生さんがちょっとした失敗をしました。

 失敗の内容は、DMF( HCO-N(CH3)2 )溶媒の乾燥に使用したモレキュラーシーブ(MS)を再生しようとして、乾燥機の温度を150℃に設定し、中にビーカーに入れたMSを入れた,というものです。その結果、乾燥機から異臭が発生しました。異臭はNOxであると片桐は判断し、全員室外へ退去し、そのままセミナーを行いました。実害はありませんでした。

 普通、このような有機溶媒の乾燥に用いたMSは再生使用せずに廃棄するのですが、彼は「もったいない」と感じ、試薬会社のマニュWEB上に公開しているマニュアルに従い再生しようとしてヒヤリハットを起こしました。

 さて、このトラブルには幾つかの注目点があります。

 一つめは、この異臭を感じた学生と感じなかった学生がいたことです。

 片桐はこれまで何度もいろいろなにおいを嗅いでおり気づきました。また学生の一人は異臭を感じたものの、特段のアクションを起こしませんでした。一方、失敗した学生を含め残りの3名の学生はその臭いをまったく感じなかったそうです。これは臭いに対する個人差に由来します。ものの本によると青酸ガスは「アーモンド臭」を示すそうです,その一方で「その臭いを検知したらその時点で命は無い」とも言われています。矛盾を感じますよね。死にそうな人が「アーモンド臭が…」と言い残して死んだわけでもないでしょう。私は実際にごく薄い青酸ガスの臭いを嗅いだことがあります(^_^ ;)。確かにアーモンド臭でした。しかし、同じ時に同じ部屋にいた他の方は(むしろ私より発生源に近い所にいた人も)その臭いに気がついていませんでした、または気がついていても気にしていませんでした[1]。

 2つめは、試薬会社がWEBで公開している再生手順マニュアルのある意味での不備です。

 確かにこの手順でMSは再生されます。しかし、MSの上に吸着されたDMFは沸点よりも高い温度で加水分解され、ギ酸とジメチルアミンに分解します。その後、脱水や酸化により一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)などのガス成分になり、放出されます。このような熱分解についてはDMFのMSDSに記載されています[2](しかし、一部の会社のMSDSには記載されていません)。同様に塩素系溶媒を乾燥させたMSを電熱線がむき出しになっている普通の乾燥機で乾燥させると、ホスゲン臭を感知することがあります(この臭いも、みんながみんな検知できるわけではないようです)。このような二次的なプロセスによるトラブルまでマニュアルは網羅していません。

 以前、アメリカ化学会のC&ENewsにそのようなトリホスゲンという化学物質の「危険性の表示」についての指摘がありました[3]。当時、この化学物質の危険性表示は「催涙性LACHRIMATOR、水との反応性MOISTURE-SENSITIVE」だけでしたが、実際に水と反応すると猛毒のホスゲンガスを発生します。つまり、その2次危険性(そちらの方がよっぽど大きな危険)が不備である、という指摘がされました。その後、この申し入れを考慮し、試薬会社は危険性の表示を改めました。

 今回、このインシデントについてはWEB上に再生マニュアルを公開している試薬製造会社2社に報告させていただきました。

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2018.06.01

日本の温室効果ガスの排出量(2016年度版)(江頭教授)

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 最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。温室効果ガス削減のための基本的な指標となるこのデータ、日本国内での発生量については温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)がとりまとめて毎年発表しています。最新版はこの4月に発表された2016年度のデータ。少しタイムラグがあり、一昨年度のデータを昨年度のうちに整理して今年度発表する、というながれになっています。

 さて、その結果は

2016年度の温室効果ガスの総排出量は13億700万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比1.2%減(2013年度比7.3%減、2005年度比5.2%減)でした。

となっています。2014年度から3年連続の減少で、2008年のリーマンショックの影響を受けた2009年、2010年とならぶ低い値となっています。2011年の東日本大震災とそれにつづく原子力発電所の停止によって化石燃料による発電に回帰せざるを得なかった状況に対して、それでも温室効果ガスが減少するという状況は継続的に社会が変化していることを示している思われます。

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