冷凍空調施設からの温室効果ガスの排出はなぜ増えるのか(江頭教授)
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日本で排出される温室効果ガスの総量、現在2016年の実績が報告されていますが、ここ三年ほど減少を続けている、という話を以前紹介しました。これは温室効果ガスの主要な部分を占めるCO2の排出量が減少していることが大きな要因なのですが、温室効果ガスにはCO2以外にもCH4、N2Oなどがあり、それらの増減も総排出量に加算されています。
温室効果ガスとして集計されている7種のガスについて、2015年度と2016年度を比較するとCO2、CH4、N2Oの排出は減少しているのに対して、その他のガスは増加しているといいます。中でもHFCs(ハイドロフルオロカーボン類)の増加は著しい。HFCsは冷凍・空調の分野で冷媒として利用されており、その分野からの排出が増加傾向にあることがその原因だといいます(下図)。
さて、これは一体どういうことなのでしょうか。確かに以前に比べて夏に暑い日が増えたような気はします。ですが空調がどんどん新設されているとは思えません。同じく冷凍倉庫が大人気だ、という話を聞いたこともありません。空調冷凍の分野はどちらかと言えば成熟した産業分野だと思うのですが...。
図は「フロン類対策の今後の在り方に関する検討会(第1回)」の資料として配付された「フロン類対策に関する課題及び論点」という文章からの引用です。
実はHFCsはオゾン層を破壊する塩素原子を含まないフロン、つまり代替フロンなのです。オゾン層保護のために従来型のフロンが規制されたことから、既存の冷凍機が寿命となったとき、交換のため新規に導入される冷凍機は代替フロンを利用したモデルとなります。このため、日本の社会に存在する冷凍機がどんどん代替フロンを利用するタイプに置き換えられているのです。それに対応して代替フロンを利用する冷凍機から漏出するHFCsが増えている、と言うわけです。
なら代替フロンへの置き換えをやめるべきだ!
いえいえ、代替フロンが温室効果ガスであるのと同様、従来のフロンも温室効果ガスなのです。(ものによっては代替フロン以上の温暖化係数をもっています。)ですから、これは温室効果ガスの排出量の集計に際して従来のフロンは加算されず、代替フロンだけが加算されている、という単なる集計上の問題なのです。
代替フロンへの置き換えを進めると温室効果ガスの排出量が増えてしまう。なんとなく厳しい削減目標を押しつけられている気がします。でも視点を換えればいままで使っていた従来型のフロンの排出量についてはお目こぼししてもらっていた、という見方もできますよね。
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