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エネルギーの限界と成長の限界(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 産業革命以来の科学技術の発達によって、先進国に暮らす人々、例えば私たち現在の日本に生きる人間は豊かな生活を享受してます。具体的には、充分な量の食料が供給され、多種多様な衣服が提供され、快適な居住環境が整備されています。それに加えて娯楽から学修まで多種多様な情報源に接することも容易ですし、伝染病や災害の制御によって長い寿命を生きることが期待できるのです。

 この科学技術の成果を全肯定するのがサステイナブル工学の前提であり、その一方で、このような豊かな生活は現状のままでは維持できず、持続可能なものに根底的に変革されるべきだ、というのがサステイナブル工学の理念です。

 では、なぜ現在の科学技術文明は持続不可能だ、と考えるのでしょうか。その理由は一つではありませんが、大きな、おそらく最大の理由の一つはエネルギー資源の有限性だと私は考えています。

 現在の文明は石油に浮かぶ楼閣であるが、石油資源には限りがある。いつか石油を掘り尽くして持続不可能な状態に陥る、これが一番素朴なエネルギー資源の有限性への認識でした。やがて、石油の枯渇が温室効果ガスによる気候変動に置き換えられ、化石資源はあっても使えないもの、大気中のCO2の限界によって制限されるもと、という認識が一般化しました。いずれにして、エネルギーの限界こそが成長の限界である、すくなくとも最初に訪れる限界である、という認識に変化はないでしょう。

 では、有限のエネルギー資源、という意識はいつ頃できあがったものなのでしょうか。

 まずは下の図を見てください。これは資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」から引用した日本の最終消費エネルギーの経年変化です。

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 図には約半世紀にわたる、日本の最終消費エネルギー消費の変化が示されています。1965年度からの最初の10年間、エネルギー消費は5,000PJから2倍の10,000PJを越えるまでに増加していることがわかります。これはいわゆる高度経済成長期であり戦後の復興から日本が先進国レベルの生活水準を実現する時期にあたります。当時は経済の成長とエネルギー消費の増加が同時に起こっていて、経済成長にはエネルギーの消費が不可欠だ、という意識を多くの人に植え付けたのでしょう。

 このエネルギー消費の増加傾向を一変させたのが第一次、第二次のオイルショックでした。中東の産油国にからむ国際政治が原因となって石油の価格が高騰、これは日本の産業に文字どおりショックを与え経済を圧迫することとなります。エネルギーが不足すると経済が悪化する、ここでも経済成長とエネルギーの関係が強く意識されたに違いありません。

 その後、石油の価格が低い水準で安定に転じたこと、そしてオイルショックの反動として起こった「省エネ」ブームなど技術的な対応もあって1980年代を過ぎて1995年度までの期間、エネルギーに関する関心は薄れると同時にエネルギー消費も再び増加、ついには15,000PJを越える水準に達します。この時期の日本経済は高度経済成長から安定成長に移行するかに見えましたが、その後にはバブル景気に突入しました。バブル景気がそれほどエネルギー消費に影響せず需要を急増させなかったことは、エネルギーと経済成長を結びつけて考えていた人々には、バブル景気が実態のない「バブル」であることの証拠に見えたのではないでしょうか。そして1995年度以降、バブル崩壊につづく国内景気の低迷期、いわゆる「失われた10年」のあいだエネルギー消費の増加速度はさらに低下しました。

 その後、エネルギー消費は2005年に記録したピーク値 15,827PJ を境に減少に転じ、最新である2016年度のデータでは13,321PJとなりました。これは1990年度の水準に逆戻りしたことになります。特に2010年度以降、エネルギー消費の減少傾向ははっきりとしていますが、この時期の経済は必ずしも停滞していたわけではありません。2011年の東日本大震災以降の経済成長は、エネルギー消費に制限されない経済成長の兆しのようにも見えます。

 さて、この半世紀のエネルギー消費の変化を振り返ってみると、有限エネルギー資源、という意識が生まれたのは1970年代半ば以降のオイルショックの頃であったと思われます。実際にエネルギー消費の削減が始まったのが2005年度以降であることを考えると、意識が行動に反映されるために約30年の歳月が必要だったことになります。30年間、皆さんはこの時間を長いと感じますか、短いと感じますか?

江頭 靖幸

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