人間にはどのぐらいのエネルギーが必要か(江頭教授)
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先進国の豊かな生活を続けるためには充分なエネルギーの供給が必要だが、エネルギー資源が枯渇すれば生活水準を落とす必要がある。サステイナブル工学の役割は、技術の力で生活水準を持続できるようにすることである。これは昨日の記事でも述べたことです。
では豊かな生活を維持するにはどのぐらいのエネルギーが必要なのでしょうか。一人の人間が必要とするエネルギーはどのくらいなのか、これにはいろいろな見方があると思いますが、今の日本人の生活が豊かな生活を代表していると考えて、日本人が一人当たりに使っているエネルギーを「人間が必要とするエネルギー」の指標だ、と考える事もできると思います。前回同様「総合エネルギー統計」をみると、下図のようなグラフが載っていました。
2005年以降、一人当たりのエネルギーは減少傾向にあり、直近2016年度のデータは 155GJ/人 となっています。
日本の人口は約1億3千万人だから 155 倍すると 約200億。日本全体では 200億GJか。PJ(ペタジュール)はGJ(ギガジュール)の千倍の千倍、つまり6桁上だから200億GJは20,000PJ くらいになるはずだが...。あれ、前回のグラフだと 13,321PJ となっているんだが?
気がついた人もいたと思うのですが、今回の記事ではエネルギーということばをかなり曖昧に使っています。下図のエネルギーは「一次エネルギー国内供給」とありますが、昨日の記事のグラフで示されているのは「最終エネルギー消費」。両者は異なるものなのです。
「石油を輸入して発電した電力を家庭で消費する。」
こんなケースで考えてみましょう。輸入された石油はエネルギー資源で海外から国内に入ってくるので、これは「一次エネルギー国内供給」に含まれます。家庭で消費された電力は「最終エネルギー消費」に入ります。両者の間に「発電」が入っているところがポイントです。
自然界から採取されたエネルギー資源は通常、そのままの形で利用することはできません。何か利用しやすい形に変換された後に消費されますが、その変換に際して幾分かのロスが生じるのです。
2016年度のデータでは「一次エネルギー国内供給」は 19,836PJ 、「最終エネルギー消費」は 13,321PJ なので、エネルギー消費の一次エネルギーに対する比率は67%となります。約 1/3 のエネルギーは変換に際して失われる、という言い方もできますが、だからと言って原油でパソコンが動くわけでもありませんよね。
さて、最初のお題にもどりましょう。豊かな生活に必要なエネルギーは、一次エネルギーなら年間 155GJ 、エネルギー消費なら 104GJ となります。一次エネルギーで150GJ、エネルギー消費で100GJとすると覚えやすいでしょう。
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