エネルギー消費と温室効果ガス(江頭教授)
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日本が排出している温暖化ガスはどのぐらいなのか。先日のこの記事で2016年度の値(少し前ですが、データの最新版はこの年度のものです)が二酸化炭素換算で13億700万トンであったこと、2013年度をピークとして3年度連続で減少している事を紹介しました。
と、ここまでの書き出し部分は昨日の記事と同じです。昨日は「今回は日本の同じ期間のGDP(国内総生産)の推移を見てみましょう」と続けたのですが、今回は日本国内でのエネルギー消費との比較をしてみたいと思います。
エネルギー消費については資源エネルギー庁に「総合エネルギー統計」と題するページがあり、いろいろなデーターをダウンロードすることができます。それに基づいて、一次エネルギーの国内供給の値をグラフ化したのが以下の図です。
まず、縦軸の原点が0になっていない事をお断りしておきましょう。大体の変動幅は2006年から2016年度までで約10%程度。温室効果ガスの排出量も同じく10%程度の変動幅ですから、細かい変化をみるために変動部分を目立たせる様なプロットになっています。
さて、一次エネルギー供給と温室効果ガスの排出量のグラフを比べてみましょう。
まず、2008年からはじまるリーマンショックの影響をチェックしてみます。
2008年度から翌2009年度にかけて一次エネルギー供給の落ち込みが確認できます。温室効果ガスの排出量にも同様の変化がみられ、この時期の経済危機に際しては一次エネルギー供給と温室効果ガスの排出量がリンクしていることが分かります。
さて、ここまでは昨日の記事とほとんど同じ記述になりました。GDP、一次エネルギー供給、温室効果ガスの排出量の三つの数字はリーマンショック頃までは同じように変化してきた、ということです。しかし、2013年度以降の傾向を見ると、GDPが増えているのに温室効果ガスの排出量は減少する、という傾向が見られるようになりました。つまり、GDPと温室効果ガスの排出量は連動しなくなっているのです。
では、一次エネルギー供給はどうなのでしょうか。グラフを見ると、2013年度をピークとして減少傾向にあるので、これは温室効果ガスの排出量と同じ傾向となっています。
つまり、2014年度から2016年度の日本ではGDPが成長したのにもかかわらず、一次エネルギー供給が減少し、温室効果ガスの排出量も減少した、ということになります。(温室効果ガスの排出量の減少が全て一次エネルギー供給の減少が原因だ、とまでは言えませんが。)
一次エネルギー供給や温室効果ガスの排出量のような物質的な成長がなくても、GDPの成長は可能である。これは2014年度から2016年度の日本をみれば正しい事が分かります。物質的な成長には自ずと限界がある、これは「成長の限界」で指摘された重要な事実なのですが、経済成長(GDPの増大)には限界がないのかもしれません。
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