「ダイベストメント」ってどうだろう?(江頭教授)
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「ダイベストメント」は「インベストメント(投資)」の反対で、投資しない、という意味だそうです。倫理的に問題がある、積極的には賛成できない事業やその担い手企業に対して投資をしないことで世の中をよくしていこう、という考え方だと言います。倫理的に良いこと、賛成できることに投資(インベストメント)することの逆だ、という意味ですね。
さて、地球温暖化問題への対策をこの「ダイベストメント」で推進しよう、という考えがあるそうです。石炭を利用する産業に対して投資をしないことで、例えば石炭火力発電所の建設に融資しないことで、エネルギーの脱炭素化を推進しようというわけです。
まず、私はこの「ダイベストメント」を実施する人や推進する人に別に反対はではありません。経済学や金融の専門家でもないので[ダイベストメント」の効果を完全に理解しているわけでもありません。しかし、私自身はこれには乗れないなと感じている、今回はその理由を書いてみたいと思います。
端的に言うと
一部の人が「ダイベストメント」をしても、別の人が「インベストメント」するんじゃないの?
という事です。
だからこそ、皆が「ダイベストメント」に参加することが必要なんだ!
確かに。
でも、それって法的規制と同じだよね?なら、法的規制の方が良くないかな。
上記は違う論点が二つ混じっています。一つは「ダイベストメント」なんて効かない。もう一つは、もし「ダイベストメント」が効いたらそれも嫌だ、の二段構えです。
石炭火力発電所への「ダイベストメント」の目的は、投資者の「私は温室効果ガス削減の協力した」という主観的な満足であるならば、その目的は達成されていると思います。しかし、実際に石炭火力発電所の建設が止まるかと言えば、そうとは限らない。環境問題に関係なく、一番利益が出る投資を行う投資家がいれば、そこから資金が(幾分高い利益率で)流れることになるでしょう。「ダイベストメント」に参加する投資家が少ないうちは、おそらくこうなると思います。
本当にエネルギーの脱炭素化を進めたいならば、そして石炭火力発電所建設を規制するのことがそれに対して有効ならば、やはり法的な規制が実効的な効果をもつ方法だと考えます。
では、「ダイベストメント」に参加する投資家が増えて、大多数を占めたらどうなるのでしょうか。石炭火力発電所の建設計画はどこからも融資が受けられない。だから石炭火力発電所は造られない。これなら法的な規制を行ったのと同じ効果がありますね。
でも、「ダイベストメント」と法的規制は厳密には同じではありません。法的規制には法律が必要で、その法律を立法するのは国民の代表です。でも、「ダイベストメント」を行うのは投資家ですよね。それで良いのでしょうか?
地球温暖化という問題から離れて考えたとしても、投資家と言うほどの財産を持たない私は社会を変革する方法としての「ダイベストメント」にはある種の不安を感じるのです。やっぱり、良いことに投資する「インベストメント」の方がすっきりしますよね。(まあ、投資家と言うほどの財産もないので関係ないか。)
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