CFC(オゾン層を破壊するフロン)はなぜ温室効果ガスの排出量に加算されないのか(江頭教授)
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CFCは「chlorofluorocarbon」の略で炭化水素の骨格に水素にかわってフッ素や塩素が結合した形の化合物。いわゆるフロンのことです。
無色透明無味無臭無害かつ安定なため冷凍機の溶媒やスプレー缶などに利用されたのですが、その安定性が徒となり地表で利用されたCFCはオゾン層まで到達。紫外線で分解されて分離した塩素原子がオゾン層を破壊することになった。
これは良く知られたことですね。
オゾン層を守るために世界の人々は協力してCFCの生産と利用を規制することにした。それを具体化したのがモントリオール議定書。その発効以来、大気中のCFCの濃度の増加は止まり、ゆっくりと減少している。
これも広く知られたストーリーです。
では、CFCが温室効果ガスでもある、という話はご存じでしたか?たとえばフロン12として知られるジクロロジフルオロメタンの温暖化係数は14,400。二酸化炭素の1万倍以上の温室効果をもたらします。
そういうことなら、温室効果ガスを規制するためにはCFCの規制も重要だろう。温室効果ガスの排出量のなかでCFCが占める割合はどのくらいなのか。そう、考えて温室効果ガスの排出量の集計値をみると、なんと、CFCの項目それ自体がありません。これは一体どうしたことでしょう。
端的に言って「だれもCFCを造っていないし、これからも造らないので、温暖化対策に影響を与えないから。」です。CFCはオゾン層破壊物質を規制する「モントリオール議定書」によって規制されるので、わざわざ温室効果ガスとしても規制すると二度手間になってしまう。これを避けるためにCFCは温暖化対策から外れているのです。
この取り扱い自体は合理的なのですが、「モントリオール議定書」に従ってCFCから代替フロン、HFCsへの転換を行うと見かけ上温室効果ガスの排出量が増えている様に見える、という問題があります。この問題については前回も紹介しています。
さてこのように、フロン(CFC)と代替フロン(HFCs)の規制の枠組みは異なっているのですが、両者の利用される目的、製造・使用する企業の多くはオーバーラップしています。実際に代替フロンの規制を行うことを考えるとモントリオール議定書に対応したCFC規制のしくみをそのまま利用するのが現実的だ、と考えらます。2016年には「モントリオール議定書」の一部が改正され代替フロン(HFCs)も規制の対象となることになりました。この決定が行われたルワンダの首都キガリにちなんでモントリオール議定書の「キガリ改正」と呼ばれています。
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