不快すぎて意味をなさない不快指数(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
話題に困った天気の話でも、といいますが、最近は話題に困らなくても天気の話が口をついて出てしまいます。
暑いですねー!
自分の子ども時代を思い出すと天気予報で「明日は30℃を越える」と聞くと暑い一日を覚悟した様に記憶しているのですが、あれは本当に日本のことだったのでしょうか。前前前世の記憶かも知れない、などと思ってしまうくらい、異常な暑さの日が続いています。
さて、子どものころの記憶で暑さに関連して覚えているのが「不快指数」という指標です。まず名前のインパクトがすごい。不快指数という言葉を聞いただけで不快になるのですが、最近、あまり聞かなくなったように思います。
そう思って不快指数について調べてみると日本気象協会(これは一般財団法人で気象庁とは別組織です)のサイトで以下の様にデータが公表されていました。不快指数の値とともに説明として
不快指数は、「日中の蒸し暑さ」を表し、数字が大きいほど蒸し暑く不快であると言えます。「70未満・70~74・75~79・80~84・85以上」の5レベルで、80以上はほとんどの人が不快に感じる暑さです。
と記されています。
さて、不快指数とは具体的にどのように計算されているのでしょうか。
不快指数は実はこちらで紹介した湿乾球湿度計の湿球温度、乾球温度から計算されています。
乾球温度をTd、湿球温度をTwとすると、不快指数DI = 0.72 (Td十Tw)十40.6
となります。では、この計算でどうして「80以上はほとんどの人が不快に感じる暑さ」となることが分かるのでしょうか。物理的な測定値である湿球温度、乾球温度から人間の感じ方を推察するのは、暑さを感じる人間の感覚器官の特性を分析して、などと考えるととても難しいことに思えるのですが…。
これは単純に、いろいろな温度や湿度の条件で「不快に感じますか?」と質問し、湿球温度、乾球温度と不快に感じる人の割合の関係を式の形に整理したものです。さらに、なぜ不快指数80が「ほとんどの人が不快に感じる暑さ」の境界値なのか、といえば「境界値が80になるように 0.72 や 40.6 のパラメーターが決められているからです。
アンケートの基づく指標で、別に物理的な意味がある数値ではありませんから、アンケートの内容や対象の集団が変われば別の数値が用いられることとなになります。その意味で、この不快指数はアンケートをやり直した方が良いのではないでしょうか。
最近の不快指数は日本のほぼ全土で80%を越えてしまっています。結局「今年の夏は暑い」以上の情報が無い。つまり日本の夏は不快すぎて不快指数という指標は高い側に振り切れてしまっているので、最近ことさらに天気予報などで言及されなくなったのでしょう。
今や「不快に感じますか?」なんて生やさしいアンケートでは意味のある差が表示できません。新しいアンケートでは、そうですねえ、
「君は、生き延びることができるか?」
ぐらい聞いてみたらどうでしょうか。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)