« 大学院説明会 大学院入試 コネとは(片桐教授) | トップページ | 京都議定書約束期間の温室効果ガス排出量(江頭教授) »

今は昔の京都議定書(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 温室効果ガスの排出量を削減するための世界的な枠組み、といえば今は「パリ条約」ですが、それ以前には「京都議定書」が存在していました。

 うーん、この言い方、私にはなんかピンと来ません。京都議定書の方がなじみが深く、まだパリ条約になじみがないからでしょうか。

 さて、京都議定書は1997年、日本の京都で開かれたCOP3(第三回気候変動枠組条約締約国会議)で取りまとめられた温室効果ガスの排出量を規制しようとする条約のことです。各国の削減目標値が条約で規定されている、という点でパリ条約の自主的な目標設定とは異なったアプローチがとられています。この条約での日本の削減目標は90年度基準でー6%でした。この後「マイナス6%」という目標値は盛んに広報され、なんとなく耳に残っているの人もいるのではないでしょうか。

 では、この京都議定書が規定している削減を実施する期間はいつからいつまでだったでしょうか。2008年から2012年まで。そうです。京都議定書はすでに終了した枠組みなのです。ということは「マイナス6%」という約束が守られたかどうか、すでに結果がでているということですね。(なお、2012年度以降も京都議定書を延長する「第二約束期間」も設定されていて、これは2020年まで続きます。)

Photo

 結論は「約束は守りました」というものですが、普通に考える様な「温室効果ガスの排出量を6%減らしました」というようなものではありませんでした。図は環境省が公開している資料「温室効果ガス排出量の算定結果」の2012年度版から引用したものですが、実際の排出量は90年度比で1.4%増となっています。

 これで一体どうして6%減らしたことになるのでしょうか。これには二つの要素が関係しています。

 まず一つ目。京都議定書では温室効果ガスの「排出量の削減」に加えて一定の値を上限として「吸収量の増加」を加えて評価して良いことになっています。森林は二酸化炭素を吸収していますが、その大部分は落ち葉や枯れ木が腐敗する過程で二酸化炭素として大気にもどってゆきます。ただ、森林を手入れして樹木が大きくなり数が増えるなら、樹木の形で固定された二酸化炭素は増加します。これが3.9%分。1990年と比べて1.4ー3.9=-2.5%となりますが、これでもマイナス6%には届きません。

 二つ目の要素は「京都メカニズムクレジット」の5.9%。マイナス2.5%からこれを差し引いてマイナス8.4%。目標のマイナス6%を無事クリアすることとなりました。

 なるほど。では「京都メカニズムクレジット」とは一体何でしょうか?

 京都メカニズムは市場原理を活用した温室効果ガスの削減のために仕組みで、一つの国の中で削減が困難な場合、他の国に削減を肩代わりしてもらい、代わりにその削減のための費用を負担する、というものです。京都議定書の目標を超えて削減が可能な国はその分で「クレジット」を手に入れる。目標の達成が難しい国は、そのクレジットを購入することで削減した扱いになるのです。クレジットの価格は市場原理で決まります。少ない費用で削減できる国は安くクレジットを売ることができるので、その国に資金が集まります。結果として効率的に削減が可能になる、という仕組みです。

 さて、この京都メカニズムクレジットを利用することで京都議定書の目標マイナス6%は達成されたのですが...。これで気候変動の問題が解決したわけではありません。京都議定書が締結された1997年に比べると、目標が達成された2012年には気候変動の問題がより明らかな形で知られる様になっていました。普通に生活している人から見れば、マイナス6%の目標を知らされた時期に比べて達成された時のほうが状況が悪くなっているようにしか見えなかったのではないでしょうか。排出量削減に協力しろ、と言われて頑張ったら状況は悪くなっていた、そう見えても仕方ないタイミングでしたから京都議定書には今ひとつ達成感がないのでしょうね。

 

江頭 靖幸

« 大学院説明会 大学院入試 コネとは(片桐教授) | トップページ | 京都議定書約束期間の温室効果ガス排出量(江頭教授) »

解説」カテゴリの記事