温室効果ガス排出の削減要因(江頭教授)
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先頃発表された2016年度の温室効果ガスの排出量の確定値をみると、日本では3年間ほどのあいだ、経済が成長してGDPが増えているにも関わらず室効果ガスの排出量が減少する状況が実現していることを紹介しました。
これは経済成長と温室効果ガス排出のデカップリングというべき現象です。今までは経済成長にはエネルギーの利用増加が必須であり、そのため室効果ガス排出が増えることになる。つまり、経済成長と温室効果ガス排出はカップリングしているとみなされていたのですから、その常識を覆す状況が起こっている、という事実は経済を犠牲にしなくても温室効果ガス対策はできることを示している訳で、温室効果ガス削減の実現に強う希望を与える事実です。
では、この経済成長と温室効果ガス排出のデカップリングはなぜ実現されたのでしょうか。
可能性の一つは日本の人口が減少し始めているから。あるいはGDPを生み出すために必要なエネルギ-が減ったから、という理由もあり得ます。さらに同じエネルギーを得るために排出される温室効果ガスが減った、などの理由もあるでしょう。
環境省が温室効果ガス排出量の算出結果と同時に発表している資料「(参考資料)エネルギー起源CO2排出量の増減要因分析」では、このような仮定のうち、どれが実態に近いのかを検証しています。
ここで用いられているのは「茅方程式」をベースに人口の要因を加えた以下の式です。
オリジナルの茅方程式ではCO2排出量とGDPの関係を示していましたが、こちらは人口とCO2排出量の比例関係を表す式となっています。
比例係数の一つ目はCO2排出原単位。一定のエネルギーを得るために放出されるCO2の量を表しています。
もう一つはエネルギー消費原単位。一定のGDPを稼ぐために必要とされるエネルギーを表します。
最後は1人あたりのGDPで、これは説明する必要は無いでしょう。
さて、以下の図は「エネルギー起源CO2排出量全体」に対する要因分析ですが、この3年ほどのCO2排出量の減少はおもにエネルギー消費原単位要因、つまり「GDPを生み出すために必要な化石燃料が減った」ことが主要な要因であることが示されています。
これをみるとこの「経済成長と温室効果ガス排出のデカップリング」は「経済成長とエネルギー消費のデカップリング」が原因だ、と言って良いでしょう。エネルギーを増やさなくても価値(GDP)を増やすことができる、というのです。
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