「省エネ」VS「高付加価値化」(江頭教授)
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先日、こちらの記事で茅方程式について紹介しました。
茅方程式は図のような恒等式。経済規模(GDP)とCO2排出量が比例していることを示していますが、その比例係数が必ずしも一定とは限らない。この比例係数を変えることができればCO2を排出しなくても経済成長は可能だ、ということが分かります。
そう説明しました。その後、二つの比例係数について述べたのですが、今回考えてみたいのは二つ目の比例係数についてです。
つまり、「Energy÷GDP」。一定のGDPを稼ぐために必要とされるエネルギーで、エネルギー消費原単位と呼ばれます。前回はこれを「省エネのことだ」と表現したのですが、これは少し狭い理解ではないか、と思うのです。
エネルギー消費原単位の分子は消費されたエネルギー、分母はそのエネルギーで生産されたGDP、つまり価値を表しています。分母が一定ならエネルギー消費原単位を小さくすることは「同じ価値を」より「少ないエネルギー」で生み出すこと、つまり省エネのこと、となるわけです。
その一方で分子である「エネルギー」を一定だと考えるとエネルギー消費原単位を小さくするにはより「大きな価値を生み出す」ことができれば良い、ということになります。ここでは価値をGDPで表現しているのですが、では価値あるいはGDPはどのように決まるものなのでしょうか。
GDPは「金額を集計する」という意味では客観的手順によって算出される数値ではあります。しかし、どのようなものが商品価値をもつのか、それぞれのサービスがどの程度の金額で提供されるべきなのか、これに関しては科学的な根拠はありません。もちろん消費者や供給者が勝手に決めることはできないので個人の主観で決まるものではありませんが、自然によって決まっているわけではない、という意味では客観的なものではありません。集団としての人間が決めているもの、つまり社会主観によって決まっているものなのです。
モノやサービスにこれだけのエネルギーが使われているからこの価格、あるいはこれだけの物質が使われているからこの価格、という客観的な根拠で価格が決まるわけではありません。正確にはこれだけの物質やエネルギーが使われているから、最低でもこの価格、という下限は決まるのですが上限は決まらないのです。
例えば食品の場合、どんな人も最低限の食料は必要としていますから、いくら社会主観といっても食料には一定の価格がつくはずです。ですが、より「高級な」食品をつくって価格を上げることも可能です。栄養価が高い、おいしい、珍しい食材、体に良い、世間で評判、などいろいろな付加価値をつけることが考えられます。これらの高付加価値化の手法の中にはエネルギーの追加投入が必要なものもありますが、中には同じエネルギーで高い価値を実現する手法もあるでしょう。価値は社会主観なので物質やエネルギーに制限される必要は無いのです。同じエネルギーで高付加価値化ができればエネルギー消費原単位も減少します。つまり、エネルギー消費原単位を小さくする手法には(追加のエネルギーを必要としない)「高付加価値化」があり得るのです。
茅方程式にもどって考えるとCO2排出量を増やさずにGDPを大きくすることは「省エネ」の他に「高付加価値化」によっても達成できる、とまとめられます。注目するべきなのは「省エネ」には必ず限界があるのですが、「高付加価値化」には少なくとも物理的な限界が無い、という点でしょう。その一方で「省エネ」技術には科学的な基礎があり、いつでも、だれでも、どこででも同じ効果が期待できるのに対して、「高付加価値化」には確実な方法論がありそうもない、という違いもあるのですが。
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