経済成長と二酸化炭素と茅方程式(江頭教授)
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「経済成長のためには二酸化炭素の排出量が増えるのもやむを得ない」
この命題には例外があることがすでに知られている(例えば2014~16年度の日本など)のですが、それでも強い説得力をもった命題です。何しろ産業革命以降の経済成長のほとんどが化石燃料の使用量の増加、すなわち二酸化炭素の排出増加を伴っていたのですから。
とはいえ、この命題を受け入れてしまえば二酸化炭素の排出抑制は即座に生活レベルの低下を意味することとなってしまいます。こんどは排出抑制を受け入れる人がいなくなってしまうでしょう。
ではどう考えたら良いのか。それを巧く説明するのが茅方程式です。
「茅」とついているのは東大名誉教授の茅陽一先生が発案した式だからです。「豊かな生活(GDP)にはエネルギーが必要」「エネルギーを使うと二酸化炭素が放出される」その関係を、CO2、Energy、GDPの以下の様な方程式で表現したのです。
これは方程式というより恒等式ですよね。右辺の分数を約分すると左辺と一致するので、この式は常に正しいのですが、重要なのはそこではありません。
この式は「CO2の排出量はGDPに比例している」と理解できますから、このままなら「経済成長(GDPが大きくなる)のためには二酸化炭素の排出量が増えるのもやむを得ない」ことを端的に表す式です。
しかし、茅の式にはCO2の排出量とGDPの比例係数も明示されています。この比例係数が一定であるならGDPが大きくなるとCO2排出量も増えてしまいますが、実際には比例係数が一定である必要はない、というところがポイントです。比例係数を小さくすればGDPがそのままでもCO2排出量を減らすことができる。うんと小さくなれば経済成長を続けながらCO2排出量を減らすことも可能だ、と考えられるのです。
では、この比例係数はどんな意味を持っているのでしょうか。
一つ目は「CO2÷Energy」。一定のエネルギーを得るために放出されるCO2の量を表しています。(CO2排出原単位と呼ばれます。)石炭を石油に、石油を天然ガスに置き換えればこの項は小さくなってゆきます。再生可能エネルギーに転換すればさらに小さくなるでしょう。
もう一つは「Energy÷GDP」。一定のGDPを稼ぐために必要とされるエネルギーを表します。(エネルギー消費原単位と呼ばれます。)少ないエネルギーでGDPを稼ぐ、と考えると無理筋ですが、GDPを一定にしてエネルギーを少なくする、と言い換えるとこれが省エネのことだと分かります。
要するに「低炭素なエネルギーを導入しつつ」「省エネ技術を開発すれば」CO2の排出を抑えながら経済成長することができる、ということを茅方程式は表しているのです。
なんだ当たり前のことを...。
それはそうなのですが、茅方程式で整理されると非常にすっきりと理解できると思いませんか。それにCO2排出原単位やエネルギー消費原単位を実際の統計データから計算し、経年的な変化を評価することもできますから、やはり茅方程式は有意義だ、そう思うのですが皆さんはどうお考えでしょうか。
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