エネルギー起源のCO2排出量が減少するとき(江頭教授)
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前回の記事では2015年のデータをもとに、世界のエネルギー起源のCO2排出量が減少に転じたことを紹介しました。データはIEAのまとめた”CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION (Over View)”という資料ですが、今回もこの資料からエネルギー起源のCO2排出量の経年変化のデータ、それも150年にせまる長期にわたるデータを見てみたいと思います(下図)。
まず一見して分かるのはエネルギー起源のCO2排出量の常に増加するトレンドであった、ということです。排出量が数年つづいて減少した期間は145年間で数回しかありませんし、10年以上減少が続いた期間は一回も無いのです。これをみると2015年の排出量が減少に転じたことが如何に異常なことかおわかりいただけると思います。
直近で排出量の減少が起こっているのは2008年。これはリーマンショックの影響でしょう。1980年代の排出量の減少は数年つづていますが、これは第二次オイルショックの影響であると思われます。世界大恐慌は1929年から始まっていますが、その時期にも排出量の減少が見られます。
要するに排出量の減少と世界経済の後退は同時に起こっているのです。
2015年、世界経済は成長を続けていましたから、その意味でもこの年の排出量減少は特筆すべき現象なのです。実際、”CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION (Overview)”では2015年の排出量の減少を、世界経済が成長を続けるなかで排出量が減少するのは1990年代以降で初めてのケースとしています。
もっとも、2015年の排出量減少は石炭から石油・天然ガスへの転換による部分が大きいのも事実です。世界のエネルギー需要が安定に達して減少に転じた、とか再生可能エネルギーへの転換が本格化した、というわけではありません。石炭からのエネルギー転換にも限界がありますから、今回の排出量減少が傾向として定着するのは難しいのではないかと思われます。
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