実験で予想が当たることを「失敗」とは言いません(江頭教授)
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「フレッシャーズゼミ」は本学の一年生向けの授業です。「ゼミ」と名前にある様に研究室に10名程度の一年生が所属します。授業の受け方からは始まって図書館の利用方法などの手ほどきを受けるのですが、それは1年前期の始まりの頃のお話。後半は研究室単位で4~5名程度のグループをつくって自由にテーマを選んで調査や研究を行い、その成果を最後にポスター発表することになっています。
ポスター発表が近づいたころ、私が担当する学生さんからポスター原稿が届きました。このグループは高校でも化学の実験としてよく取り上げれる「スライム」の歴史について調べていました。「スライム」はもともとゴムの代用品として開発された、という情報をもとに実際にスライムをつくってゴムと比較したのですが、やはりスライムにはゴムのような強度はありません。
それはその通りでしょうが、その結果を受けてポスターでは「実験が失敗した理由は云々...。」とまとめられていたのです。
いやいや、ちょっと待ってください。スライムはゴムの代用品として開発されましたが、結局ゴムに取って代わることはできなかったのですよね。だからゴムとスライムの違いを見定めるのが実験の目的ではありませんか。
その意味で今回の実験は「スライムは強度の点でゴムと異なっている」という結論がでていて、「スライムがゴムの代用品としては不十分だった」という理由が示唆されているのですから、実験としては失敗ではない、というかむしろ成功なのでは...。
という感じで返信しました。ゴムとスライムが違うこと、それもスライムの方が劣っていてゴムの代用にならないことを予想して実験を企画しているのです。であれば、この結果は予想が当たったと言えるのですから失敗とはずいぶんな言い方じゃないか、という訳です。
もちろん、私にもなんとなく「失敗」と言いたくなる気持ちは分かります。何かを作ったら優れた特性を示してほしいもの。自分で作ったスライムに、なんとなく肩入れしてしまうのは自然といえば自然ですからね。もっとも科学の論理と人として情(そんなオーバーでもないかな)は必ずしも一致しません。1年生の諸君はこれからその違いを学んでゆくことになります。
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