気候変動を描いた映画「デイ・アフター・トゥモロー 」(江頭教授)
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先日核戦争を描いた映画「ザ・デイ・アフター」の紹介を書いていたとき、そう言えばこんな映画もあったな、と思い出したのがこの作品「デイ・アフター・トゥモロー 」です。こちらは核戦争ではなく気候変動を描いた2004年のアメリカ映画です。
この映画が公開された2004年ごろ、気候変動と言えば温暖化するのが当然と思われていたと思います。しかし、気候変動の影響は単に温度が高くなるだけではありません。台風の進路が変わって関東が大きな台風に直撃されたり、記録的な大雨が降るなど、などいろいろな影響がありうることがこの2018年の夏にも経験されました。この映画は気候変動によって気温が下がることもありうる、という想定によって印象的なシーンに満ちあふれた作品となっています。
気温の上昇によって北極圏の陸上の氷がとけ、真水が北極近くの海に大量に流れ込みます。その影響で地球規模での海水の流れである熱塩循環により深海に沈み込むはずだった北大西洋の海水が真水で薄められて密度がさがり熱塩循環が止まってしまう。赤道付近から両極への熱の輸送に大きな役割を果たしていた熱塩循環がとまったことによって地球の環境は新たな氷河期へと急激に移行する、というのです。
ところが、この「急激」というのがどのぐらい急激かが問題でして、ほぼ一日で地球が氷河期になってしまう、という勢いです。ほとんど冗談のような、というか完全に冗談にしかみえません。氷河期の冷気から走って逃げるという描写まであってちょっとこれはどうなんだと思ってしまいました。
本作の描写は気候変動というものの恐ろしさを巧く捉えられていないではないかと思います。ゆっくりとした変化によって通常の人間の活動が少しずつ変更を余儀なくされて行くことと、人間の活動が気候変動の原因であるという因果応報だという性質。そんな特徴がすっぽりと抜け落ちています。例えて言うなら「生活習慣病」を描くはずが「交通事故」の映画をとってしまった、という感じでしょうか。
まあ、映画の制作者にとっての気候変動は、パニックの原因になってくれる話題の現象、という程度なのでしょう。これをここまで見栄えのする絵にした努力は大したものだと言っても良いと思います。ただ、「気温が下がる」ことと「氷が着く」ことは違います、とだけは言っておきたい。まるで魔法のような映像なのですから、いっそ悪い魔法使いが地球を氷河期にしてしまいました、というお話にしてはどうでしょうか。
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