ガスの比熱と分子の自由度(江頭教授)
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やってしまいました。昨日の記事に間違い発見です。
「二原子分子の気体の定圧比熱は7R、単原子分では5R」と書いてしまったのですが、これは間違い。正確には二原子分子は(7/2)R、単原子分は(5/2)Rですね。(元記事の間違いは先ほどこっそり修正しておきました。)おっと、ここでRは気体定数(8.31J/molK)です。
さて、この比熱の求め方を皆さんはご存じでしょうか。まず定圧比熱Cpと定積比熱Cvとの間には
Cp=Cv+R
という関係が成立しています。何故こうなるかについてはまた後で説明するとして、この関係から
二原子分子の定積比熱は5×(1/2)R、単原子分は3×(1/2)R
となります。この5とか3とか、実は分子運動の自由度なのです。単原子分子なら並進の自自由度、つまりx、y、z座標の三つしか自由度はありません。二原子分子ではこれに分子の中心軸の方向を決めるφーθの二つの自由度(回転の自由度)が加わって五つの自由度があることになります。軸対称ではない分子にはもう一つ中心軸に対する方向の自由度が加わって自由度は6となります。
自由度と比熱の関係、定積比熱では一つの自由度に対して(1/2)Rの熱容量が割り当てられる計算になっています。温度が1K上昇すると一つの自由度に対して(1/2)Rのエネルギーが増える。つまり、自由度ごとに等しいエネルギーが増えることを意味しています。(これがエネルギー等配分則ですね。)
さて、定圧比熱の測定値と分子自由度から計算した値を比較したのが以下の表です。
実に良く合っている、と途中までは言えるのですが、はてさて二酸化炭素では少々事情が異なっています。二酸化炭素は直線分子ですから自由度は5のはずなのですが、実測される比熱はそれよりやや大きいのですね。
もう少し大きな分子についてはどうでしょうか?
こちらの表ではより大きな分子(と言ってもメタン・エタン・プロパンですが)を加えてみました。大きな分子では自由度は6になりますが、そのあたりではエネルギー等配分則は成り立っていないようです。
さて、この現象、どのように理解されているのでしょうか。
分子の自由度を考える場合、分子全体での並進や回転のみを考えていましたが、実際には分子内の原子の相対的な位置関係も変化することができます。例えば二酸化炭素は通常は炭素と二つの酸素原子とが一列に並んだ構造をとると考えて自由度を5としましたが、実際には分子内の振動という形で原子間の距離や角度関係も変化する自由度を持っているのです。ここにもエネルギーが配分されるのでその分比熱が大きくなる、とい訳です。メタン、エタンはともかくプロパンぐらいになると分子内の自由度は相当大きいでしょう。実際、この順番で比熱も大きくなっています。
さて、どうやら気体定数から簡単に比熱を計算できるのは希ガスと二原子分子程度のようですね。
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