熱しやすく冷めやすい空気(江頭教授)
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前回、空気と水の密度の違いについて紹介しました。もっと一般的に言えば気体と液体の違い。液体の密度は高いですが気体の密度は小さい。たとえば100℃1気圧で水が蒸発して水蒸気になるとき、1700倍に膨らみ、その密度は1700分の1に減少します。
単純に言って気体は液体や固体にくらべてスカスカだ、ということになります。それを反映して気体の熱容量も液体と大きく異なっています。おっと、これも条件をハッキリしないといけません。体積基準での熱容量が大きく異なる、ということです。逆に言うと質量基準で考えるとそんなに変わらない(同じではありませんが)という事になります。
例えば1m3の空気を加熱する場合を考えてみましょう。前回の教訓に従って条件を明らかにしましょう。20℃1気圧で1m3の空気を1℃加熱するのに必要な熱量を計算してみましょう。20℃1気圧で1m3の空気は 41.6 mol になります。 1 mol の2原子分子の定圧比熱は 7/2 R (Rはガス定数)ですから 29.1 J/(K mol) 。 41.6 mol の物質量なら熱容量は1.2×103J/(K m3) となります。
一方 1m3 の水(これも20℃1気圧)を加熱すにはどのくらいの熱量が必要なのでしょうか。1m3 の水は106g。1gあたり1℃温度を上げるには4.2Jが必要なので 4.2×106J/(K m3) となり、空気の場合の3500倍の差が生じます。
ちょっとイメージが湧きませんか?
ではこんな風に考えてみてはどうでしょうか。
100Wの電球が発熱しているとして、その熱でどのぐらいの空気や水の流れを暖めることができるでしょうか。温度差1℃、電球に供給される100Wのエネルギーは全て加熱に使われると考えましょう。
100Jの熱で1℃温度を上げられる水は約 24 mL。2.4×10-5 m3 となります。例えば1時間で考えると 0.086 m3/h となります。86 L/h と言った方が分かりやすいでしょうか。100W の電球でお風呂を沸かすのはちょっと気が遠くなりますね。
さて、これが空気ならどうでしょうか。100J の熱で 1℃ 温度を上げられる空気は約 0.082 m3 なので1時間で考えると約 300m3/h となります。空気なら 100W の電球でも暖めやすいようです。
では部屋の暖房は 100W で充分なのでしょうか。いえいえ、そうはいきません。空気そのものはすぐ温まるのですが、空気は冷たい固体や液体に接触するとすぐに冷えてしまいますからね。
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