学歴と生涯賃金のはなし(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
人が一生でもらう賃金の総額、それが生涯賃金です。自分で商売をしている人でなくても賃金以外の収入、たとえば相続などがありますから、生涯賃金=一生で使えるお金、という訳ではありません。でも、普通は生涯賃金が生涯の可処分所得のほとんどを占めるのではないでしょうか。
厚生労働省が所管する研究機関である労働政策研究・研修機構は労働統計に基づいていろいろな指標を算出し、ユースフル労働統計(労働統計加工指標集)という資料を出しています。このなかに生涯賃金の推計値も示されています。
いくつかの条件での推計値が示されていますが、「学校を卒業しただちに就職し、60 歳で退職するまでフルタイムの正社員を続ける場合(同一企業継続就業とは限らない)。」という条件での計算では「大学・大学院卒」の男性で2億7千万円となっています。
これに対して「高校卒」の男性では2億7百万円という結果が。両者を比較すると6千3百万円の差があることになります。
このデータから「6千3百万円かけてでも大学に進学すべし」と結論づけて終われば大学のPRとしては完璧なのですが、ここは少し考察が必要でしょう。
まず、この「生涯賃金」とはいつの生涯の話なのか、どの世代の人の賃金なのでしょうか。今年60歳で定年を迎える人たち、この人たちが若い頃は1970年代末頃。まだバブル以前で賃金はそれほど高くなかったのでは。それに今就職する若者達の将来に賃金も見通せるものではありませんよね。
実はこの計算値は今現在の賃金を年齢順につないで計算した値なのです。今年定年になるひとが若い頃今の人たちと同じように給料をもらっていたとしたら、あるいは今年就職した若者が今の人たちと同じように給料をもらうとしたら、という仮の計算です。これは今後世の中の賃金水準が変化しなければ、という仮定の上での数値ということになります。つまり、今就職した若者達が将来この計算値通りに賃金を受け取れるという保証はないのです。
さらに言えばこの計算値は平均の値です。高い賃金をもらう高卒者もいれば、賃金の低い大学卒もいる、これは一つの職場では考えにくいことですが、広く世の中を観察すればきっと珍しいケースではないでしょう。
1人の高校生が大学に進学するべきかどうか、これは単純に生涯賃金で計算するような事象ではないと思います。この2億7千万円という数字は一つの参考値ではありますが結局は個人の努力と適性が問題なのではないでしょうか。
追記:
もしこの生涯賃金のデータによって本当に生涯の賃金が決まってしまうとしたらとんでもないことです。実は「大学・大学院卒」の男性の生涯賃金が2億7千万円なのに対して同女性の生涯賃金は2億1千7百万円にとどまっているのです。こちらのデータからは一体何を言えば良いのでしょうか。(「竜之介、男になれ!」とか...?)
「日記 コラム つぶやき」カテゴリの記事
- 英文字略称(片桐教授)(2019.03.13)
- 地震と夏みかん(江頭教授)(2019.03.11)
- 追いコンのシーズンはご用心(片桐教授)(2019.03.07)
- Don't trust over 40℃!(江頭教授) (2019.03.06)
- 「加温」の意味は「温度を加える」?(西尾教授)(2019.03.04)