続・ガスの比熱と分子の自由度(江頭教授)
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以前の記事でエネルギー等配分の法則を使ってガスの比熱をその分子の自由度から計算する方法について解説したのですが、そのときの結論はこの方法が適用できるのは「希ガスか二原子分子程度」ということになりました。
これは大きな分子では並進と回転だけを考えた分子の自由度の計算が不十分だ、ということです。大きな分子では分子内にも自由度がある。それを無視しては正しい比熱を求めることはできない、というわけです。
それなら、「分子内の自由度もちゃんと計算すれば良いのでは」という発想がでてくるでしょう。このアプローチはうまく行くのでしょうか?
結論から言うと、うまくいかない、が答えです。理由は以下の図に。
図は気体の比熱の温度依存性を示しています。希ガスで単原子分子のアルゴンや、二原子分子の水素や一酸化炭素などは温度によらずほぼ一定の値となっています。これらは「自由度から比熱が計算できる分子」です。計算には温度は関係ないのですからこれは当然のことだとも言えるでしょう。
その一方でエタン・プロパンなどは温度によって比熱が変化しています。分子内の自由度を計算したとしても、温度によって自由度が変わることはありませんからこれらの分子に対して自由度から比熱を求めることはそもそも無理なのだ、ということが分かると思います。
温度によって比熱が変わる、これはエネルギー等配分の法則に限界がある証拠です。大きな分子の内部自由度については常温付近では充分なエネルギーが配分されないのですが、これは量子力学的な効果によるものです。
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