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分子の重さと熱の伝わりやすさ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 以前、こちらの記事で気体の比熱は分子の持っている自由度で決まる、という話をしました。例えばN2とH2は分子の重さは14倍違うのですがほぼ同じ比熱。HeはH2より重くN2より軽いのですが単原子分子なのでどちらよりも比熱が小さいのです。

 なるほど、気体の熱的な性質と分子の重さは関係ないのか...

いえいえ、関係する性質もありますよ、というのが今回のお話。その具体例が熱の伝わりやすさだ、ということです。

 熱の伝わりやすさはどう表現しましょうか。温度の高い壁と温度の低い壁に挟まれた気体を通してどれくらいの熱が流れるのか、熱い壁と冷たい壁の温度差と壁と壁の距離を一定にして比較すれば「熱の伝わりやすさ」の指標ができそうですね。温度差を1℃、壁間距離を1mとしたときに流れる熱量は熱伝導度と呼ばれていて、物質と温度・圧力がきまれば一意に決まる物性値です。(1℃は小さすぎだし1mは長すぎの様な気もしますが...。)

 さて、0℃、1気圧での熱伝導度、気体ではどんな値になるのでしょうか。

 H2 0.1675 W/mK

 He 0.1442 W/mK

 N2 0.0241 W/mK

となります。H2 > He > N2 となって、どうやら分子の重さの逆順に並んでいるようです。

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 でもなんでこのような関係になるのでしょうか。

 熱が伝わる、つまり分子によってエネルギーが運ばれる過程では分子の運動速度が大きな影響を与えています。早く動く分子にくらべて、ゆっくりと動く分子では熱が伝わりにくい。これはイメージしやすのではないでしょうか。分子の運動には自由度ごとに同じエネルギーが配分されている(もちろん、熱平衡の状態で平均的にと言う意味です)ので、小さくて軽い分子ほど速い速度で運動することになります。H2やHeはこれ以上ないほど軽い分子ですから熱の伝わり方も早いのですね。

 とはいえ、熱の伝わり方は分子の速度だけで決まるものではありません。単純に「軽い分子ほど熱を伝えやすい」わけでもないのです。

 熱の伝わりやすさに関係する項目をあと二つだけあげておきましょう。分子が運動することで熱が伝わるのですが、運動する分子がどれくらいのエネルギーを運べるか、が影響してきます。Heは運動のエネルギーしか運ぶことができませんが、H2は2原子分子なので回転のエネルギーの運ぶことができます。この点ではH2の方がHeより有利なのですが、足の速いHeの方が逃げ切った、ということでしょうか。

 そしてもう一つ。分子がどれくらいまっすぐ飛ぶことができるか、逆に言うとどのくらい他の分子と衝突するか、も熱の伝わり方に影響します。比熱のシンプルな決まり方に比べると熱伝導度は少し複雑ですね。

江頭 靖幸

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