SDGs ゴール12「つくる責任 つかう責任」(江頭教授)
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今回のお題はSDGsのゴール12、「つくる責任 つかう責任」です。もう少し言葉を足せば「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」となります。SDGsのゴールは多過ぎだ、中には意義が分からないものもある、と言ってきたのですが、これは入って良かったゴールだと私は思っています。
ゴール12のターゲットは11個。どれも大切なのですが、中でも注目したいのがターゲット12.4
2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じて化学物質やすべての廃棄物の環境に配慮した管理を達成し、大気、水、土壌への排出を大幅に削減することにより、ヒトの健康や環境への悪影響を最小限に留める。
です。SDGs全体が2030年を期限としているのに対して、12.4の期限は2020年で。野心的なターゲット、ということもありますが、同時に比較的対策が進んでいる分野だという事情もあるのでしょう。
具体的な内容は化学物質の管理、もっと端的に言えば公害の防止。世界のどこでも公害を発生させない、というターゲットです。
温暖化問題とならんで、このような課題こそ国連が対応すべき問題である、と私は考えます。
われわれ応用化学科が深く関係する化学工業では、以前未処理の廃液などが工場外に漏れ出すことで環境破壊や直接的な人間健康への被害といった深刻な公害問題を起こしてきた、という歴史があります。このような公害を出さないように工場内ででた有害物質を無害化すること。それこそが「つくる責任」を果たすということですが、これを国連の目標とする、つまり世界で共通の責任とする、ということがとても大切だと思うのです。
化学工場は「原料となる物質」から「製品となる物質」をつくる作業をする場所なのですが、製品と同時に副産物も生じています。「つくる責任」を全うするために化学工場は「副産物」から「無害な物質」をつくる機能を兼ね備えている必要があります。つくるだけなら一つの機能、公害を防ぐためにもう一つの機能。単純化して言えば「つくる責任」を果たす化学工場には無責任な工場の倍の設備が必要となるのです。
工場の設備は製品のコストに反映するものです。「つくる責任」を真面目に果たしている工場の製品は無責任な工場の製品より(他の条件が同じなら)どうしても高価になってしまうのです。グローバルな競争が行われている現状では、世界のどこかで無責任な化学工場の存在が許されているならば、「つくる責任」を果たしている工場は競争に負けて潰れてしまう。結局、だれも「つくる責任」を果たせなくなってしまうのです。
だからこそ、世界で同じ基準の「つくる責任」を定義する必要がある。これこそ国連こそが果たすことができる役割なのではないか、私はそう考えるのです。
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