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乗っていた電車で人身事故に雄遇しました。(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 12月1日土曜日の夕方から24年前にやめた会社の医薬・バイオ研究所の「同窓会」へ参加するため都心へ行きました。ついでに新宿でお昼を食べてから神田神保町の古書店街や渋谷の東急ハンズにも行こうと思い立ち、午前中に家を出ました。

 橋本駅始発の京王相模線の準特急に幸いに座れました。この日は乗客も比較的多く、車内はざわざわとしており、話し声や若い人の笑い声が聞こえていました。

 10時50分頃に千歳烏山駅を出てから電車の速度がだいぶ上がったところで、突然アナウンスがありました。

「緊急停車します、おつかまりください」

すぐに減速し、電車は止まりました。続けてショッキングなアナウンスを聞きました。

「ただいま、この電車は人身事故をおこしました。」

一瞬、車内がざわつきましたが、すぐに静まり返りました。

私の前に立っていたオバサンがひとこと

「マジか?!」

とぼそっとつぶやきました。

 私は5両目におりました。幸いにこの踏切事故による衝撃や音を聞くことはありませんでした。5分ほどして線路脇を制服の駅員さん(?)が前方から後方へと駆けて行きました。さらに5分ほどして、何種類かのサイレンが聞こえ、消防車が一つ後ろの車両の横の駐車場にやってきました。その消防車の回転灯を見て、先のオバサンがまた、

「マジか?!」

とつぶやきました。

 事故現場は私の座っている所から、数両後ろの踏切のようです。電車はその踏切から止まるまでに数百メートルほど走ったようです。

 比較的混んでいた車内でした。しかし、事故発生時から車内は異様に静かでした。

 車内放送の情報は十分ではありませんでした。情報不足はパニックを引き起こす原因のひとつ、と社会心理学の教科書には挙げられています。それでも、ざわざわとした雰囲気も、怒りの声もまったく聞こえません。ときどき遠くから携帯電話かメールの着信音が聞こえるだけです。奇妙な緊張感のある静寂です。

 私は『ああ、良くも悪くも日本人特有のレジリアンスだなあ。冷静なのか?,思考停止なのか?。』といささか不謹慎ですが、周囲の人の行動を観察していました。前の方で立っている人は皆,スマホを食い入るように見て操作しています。ある意味、外界への興味を失っているようにも見えます。恒常性バイアスのようなものでしょうか。それとも、騒いでもどうしようもないというあきらめ=大人の対応なのでしょうか。いずれにせよ、日本人は逃げ後れることはあっても、パニックを起こしにくいのでしょう。安全工学で教えたことを再確認しました。周りが静かにおとなしく事態が終息するのを待っている様子を見ていると、すこしイライラしている私自分を恥ずかしく感じました。これは多数派同調バイアスのようなモノでしょうか。

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 事故発生から2〜30分ほどして、再度アナウンスがありました。

「車両の安全は確認されましたが、これから警察による現場検証を行ないます。もうしばらくお待ちください。」

さらに20分以上たちました。やはり乗客の皆さんは静かに待っています。

「現場検証が終わりました。これから車両の最終確認を行ないます、少しだけ動きますので。おつかまりください。」

車外からは安全確認指示の係員の怒鳴るような声が聞こえます。30秒ほどして車両がゆっくりと数十センチほど動きました。

 すこしだけ錆臭い臭いが換気扇からただよっていることに気づきました。ほんとうにわずかな臭いです。私は「気のせいor急ブレーキで出た鉄粉の臭い」と一生懸命思い込むようにしておりました。『そういえば、パトカーと救急車はわかるけど、なぜ消防車?』と、さらに怖いことを考えてしまいました。

 私は一刻も早く電車がこの場を離れることを祈っておりました。

 それから5分ほどして

「最終確認が終わりましたので、電車が動きます。ご注意ください。」

とアナウンスがあり、電車はゆっくりと動き出しました。

 動き出しても徐行のままでした。1分もたたない直後に再度アナウンスがありました。

「緊急停車します、おつかまりください」

すぐに減速し、電車は再度,完全に止まりました。『またか?』 私の前に立っていたオバサンは予想通りにひとこと

「マジか?!」

とつぶやきました。

「前方の踏切に侵入した自動車と歩行者がおります。安全確認のため緊急停車しました。」

と,アナウンスがありました。どうやら2つ目の事故は防げたようです。1時間近くしまったままの踏切にイライラした人たちの行動はわからなくはないけども、でも、でも、迷惑です。車内の緊張が解けて、押し殺したような笑い声があちらこちらから聞こえました。「笑いは緊張の緩和でおこる」とは桂枝雀師匠でしたっけ。

 数分後に電車はゆっくりと動き出しました。しばらくの間、電車はいつもよりゆっくりと走り続けました。

「人身事故と、踏切の立ち入りのため、この列車は約55分遅れで次の明大前に到着の予定です。お急ぎの所ご迷惑をおかけしております…」

運転手か車掌さんの落ち着いたアナウンスがありました。そういえば乗務員アナウンスは終始落ち着いていました。慣れているのでしょうか…。

 私は電車にゆられながら

「今回のこの経験は来年度の安全工学の講義に活かせるかなあ」

「十分な時間的余裕があって良かったなあ、ギリギリでなくてよかったなあ」

「電車の遅延はしんどいし非生産的だなあ」

などなど、ぼんやりと考えていました。

 笹塚で都営新宿線乗り入れの急行に乗り換え、神保町へと旅程を進めました。

 学生の皆様へ。公共交通機関を利用する場合、到着時間に余裕を持たせるようにしましょう。

片桐 利真

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