「沙漠緑化を設計する」ということ(江頭教授)
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沙漠の緑化、あるいは沙漠での植林を設計する、という表現はいまのところ一般的ではありませんが、沙漠への植林によって何かの効果、たとえばエネルギー源としてのバイオマスの取得やCO2の固定、を期待するのであれば、その目的を達成するために具体的に何を行うかを計画すること、つまり設計することが不可欠となります。
沙漠での植林も一般的な植林と同様の部分、つまり植栽密度を適切に設定して樹木を植える、という意味での植林が前提となります。さらに、樹種の選定と苗木の確保が必要であり、加えて適切な水源からの水の供給、適切な排水経路の整備、土壌改良、場合によっては流砂の固定などの土木作業といった性質の違う作業を組み合わせて行うものとなります。最適な成果を上げるためには現地の状況や植栽後の気象の経過などに応じて適切な対応を続けることが求められるでしょう。そして広大な土地に、すくなとも十年、長ければ数十年やそれ以上の期間で森林が維持されることが期待されています。
このような理想的な乾燥地植林を想定するとはできます。しかし、一般的な機械産業・素材産業など工場における生産システムや、非乾燥地での農業と比べて、沙漠緑化には固有の難しさがあると考えられます。
工場での生産は良く管理された条件のもとで、均質な材料を加工する、同じ作業を繰り返して行うものであり、トライアンドエラーによる改善を通じて高品質なものを高効率で製造できるようになります。農業では同じ作業をしたとしても年ごとの気候の善し悪しに左右される面も強く、その点で工場での生産より不安定なものです。ただ、天候に恵まれない年があれば恵まれる年もあるわけで、過去の経験を活かしてうまく対応すれば、長期的には安定した収穫を期待できるのが普通でしょう。これに対して沙漠緑化では、管理不可能な気候に強く影響されるうえ、一度でも極端な干魃に襲われれば植林した樹木が全滅する危険性もある。そうなれば全ては一からやり直しとなってしまいます。
つまり、沙漠緑化では変動する条件に対応する高度なコントロールが必要であるにも係わらず、トライアンドエラーによる学習の機会が少ないのです。図は「沙漠の辞典」という書籍で私が書いたものを引用したもので、沙漠緑化と各種産業との時間・空間的な規模を比較したものです。小さくて短時間で完成するものなら容易に設計できるのですが、空間的にも時間的にも規模の大きな乾燥地緑化には大きな困難があるのです。
この情報不足を補うためには、水の移動に関する物理学的なモデルや植物の生理学的なモデルをうまく活用すること、複数の沙漠緑化のプロジェクトの間で知識を共有することなどが、重要となってくると考えられます。幸いにも、計測技術やモデルの進歩は著しいものがあり、乾燥地植林の実施場所で何が起こっているかについて、詳細な情報が比較的安価に得られる状況が整いつつあります。モデルによる予測をベースとしたシステム的植林を実施しつつ、トライアンドエラーによる知識を効率的に蓄積することで沙漠緑化の成功の可能性はずっと高まると期待できると思います。
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